新卒一括採用は日本の誇る社会保障制度です --- 東猴 史紘

アゴラ

(1)批判される新卒一括採用制度
新卒一括採用制度の是非が問題となっている。新卒一括採用制度とは、企業がある期間中に卒業予定者を一括して在学中に内定を出して採用する制度のことのことであり、日本の就職文化でもある。そして採用する企業と就職活動する学生のほとんどが、就活サイトのリクナビやマイナビの2つを利用するのも昨今の文化である。この日本独自の異様な文化に疑問を呈して、受験料を徴収しようとした大手IT企業のドワンゴは大いに論争を巻き起こした。


(2)新卒一括採用の問題点
確かに、新卒一括採用という文化が日本にもたらしている問題は大きい。最大の問題点は、新卒者でないと内定を得るのが難しいということだ。大学を卒業してから既卒者で就職活動してもよほどのバックグラウンドがない限り新卒者と同等の大手企業に入ることは難しい。エントリーシートではねられるケースも多いようだ。大学によってはわざと留年させ、新卒者扱いで留まれるような体制を取っている。

新卒を一括で採用し、入社後もずっと同じ会社で働くというこの文化は、労働市場の硬直化にもつながっている。中途採用の門戸が狭いのだ。OECDの発表している2012年の「若者(15~24歳)の失業率」は7.9%で、OECD34か国中最も失業率が低い。しかし、失業者の中で1年以上の失業者の割合は38.5%OECD諸国32か国中38.5%で14位と極めて高い。

そして厚生労働省が発表したH24年度雇用動向調査によると、若者の離職率は20~24歳(男)で24.1%(女27.5%)、25~29歳(男)で14.7%(女21.1%)と他の年齢層に比べてこれらの年代は離職率が高い。つまり、入社して1年ないし3年程度で離職してしまう割合が高くなってしまうと、現在の新卒一括採用制度と、入社後の長期的就業を前提としている日本企業文化では圧倒的な不利な立場に置かれる。これは新卒一括採用制度を取っているがゆえの最大の問題点である。

さらにデフレ下の長い景気停滞と、グローバル競争時代の突入により企業も社員を教育する体力が無くなっていることも新卒一括採用制度も見直せという意見に繋がっている。私自身もこのグローバル競争時代、優秀な人には飛び級や大学1年生からの内定は当然許される文化に変わっていかなければならないとは思っている。

(3)新卒一括採用の最大の利点
しかしながら、新卒一括採用制度には上記の問題点を上回るだけのメリットがある。企業側すれば一括で予定人数を採用できるので個々の時期に個々の採用をするよりもコストを抑えることができるというというのもその点だが、最大のメリットは、学生側からすれば就業経験がなくても企業に就職できるという点、そして入社後も給料を貰いながらゼロから経験を積むことができる点である。米国などでは就業経験がないと就職が難しいと言われているだけにこのメリットは相当、学生には大きい。私自身も経験を求められていたら銀行に就職できなかった。

繰り返すが、OECDの発表している2012年の「若者(15~24歳)の失業率」は7.9%で、OECD34か国中最も失業率が低いのだ。これは日本独自の新卒一括採用制度が果たしている役割も大きいのではないか。

もちろん、優秀な人には物足りないのかもしれないが、社会全体で見れば雇用の安定は国の安定である。経験がなくても会社が一から育ててくれる文化は他の国にはない。新卒一括採用は日本の誇る社会保障制度と考えてほしい。

東猴 史紘
元国会議員秘書
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