失業率3.6%。90年代後半以来の低い日本の失業率は見かけの数字だけならば主要先進国では極めて良好な成績であり、どこからも文句は出そうにもありません。しかし、日本の社会にはじわじわと悪い影響が出てくる可能性を秘めています。今日はそのあたりを考えてみましょう。
まずは最近のニュースから。(日経より)
「すき家は今年に入り、店舗に従業員を配置できないことから最大123店舗で一時休業を強いられ、124店で午後10時から午前9時までの深夜・早朝営業を休止した。」
「アルバイト・パートの時給上昇が続いている。求人情報大手のリクルートジョブズが18日発表した三大都市圏(首都圏・東海・関西)の3月の募集時平均時給は前年同月に比べ0.6%高い。人手不足に悩む外食各社が募集をかけた結果、飲食業の求人件数も49.9%増えた。」
「ラーメン店「日高屋」を運営するハイデイ日高は特に首都圏の店舗で苦戦しているという。「時給を1000円にしても応募がこない」(同社)店舗もあるという。」
「新規出店の増えているコンビニエンスストアも採用が厳しい。都心部のビジネス街ではコンビニスタッフの時給を昼間でも1000円台とするところも出てきた。」
いまやチェーンの飲食店に行けば非日本人が注文を取りに来るケースが多々見られますが、上記のニュースの通り人が集まらない深刻な状況が原因のひとつでありましょう。建設現場でも最近は外国人が混じっているのをよく見かけますが、これも同様の理由です。
失業率3.6%は80年代の好景気時代の2%台に比べるとまだましに見えますが、経済学的にはこれ以上下がるのは好ましくありません。理由は労働の質が低下するのです。経済学部の1年生ぐらいで勉強すると思いますが、数字上の完全雇用である0%とは希望すればどんな人も仕事にありついている状態であります。これは仕事を求める被雇用者の立場の数字であって雇用する側は全く労働力が足りず、それこそ猫の手も借りたい状態なのです。当然、生産物の品質、工期や納期が守れず、ブランドの信頼が崩れることに繋がります。
つまり、失業率が2%台に突入するようなことになると非常に厳しい状態となるのです。ましてや80年代と相違し、今は仕事のミスマッチが多い上に少しでも厳しい仕事を要求すればブラックとか3Kといった形で表面化してしまいます。
マクドナルドの既存店売り上げが下がるもう一つの理由は店員が疲れ切っているから、とも言われています。スマイルゼロ円が売りのマックから笑顔が消え、客席のテーブルは荒れ放題となっているその理由は人手不足に限界効率を求めたしっぺ返しと考えられます。
ユニクロが非正規社員を正規に移籍する理由はもともと離職率が高い同社において安定した労働力を確保するための何ものでもないのです。
つまり、日本の労働市場は正にギリギリのところまで来ているといえるでしょう。先日もあるチェーンの飲食店にランチタイムに入ったところ、日本人店長と東南アジア系のアルバイトさん二人。そのアルバイトさんは日本語がうまくあやつれず、店長は調理にてんてこ舞いで「ただいま時間がかかります」と連呼しながらのまさに戦争状態でありました。これが労働市場の実態であるとすれば経営者は誰でもいいからとにかく人を、ということになってしまうでしょう。
昨日もあった観光バスの居眠り事故。バス会社の社長自らが一日二度目の事故を起こしてしまっては会社の再起は不可能になってしまいます。これも人材不足から来ているのかもしれません。
女性の労働市場参加には社会の仕組みづくりが必要で直ちに期待できません。高齢者は飲食のようなスピードを要求し、激しい作業には不向きかもしれません。つまり、政府が考える女性、高齢者の雇用拡大だけでは一部では機能するものの経済全般では全く足りないとも言えそうです。
人材不足が顕著なのは低賃金の業種=デフレ時に価格競争を主導した企業、および、不人気業種が主流かと思います。これは企業に三つの選択肢を与えることになります。
①国内での業務拡大を諦めるか、②更なる効率化を図り、人材の再配分を行うか、③外国人労働者の大幅拡大でしのぐか、であります。有期の外国人労働者は増えてきています。但し、有期を認めると最終的には何らかの形で日本に外国人が大幅に増えるということにもなります。(以前お伝えしましたが、日本は移民権はもっとも取りやすい国の一つです。)
2020年までに外国人観光客を今の3倍の3000万人に増やす政府方針は労働力を含む論理的な裏付けをもってそこまで増やせると考えているのか、このあたりが今、日本が考えなくてはいけないところだと思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年4月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。