米4月雇用統計・NFPと失業率は良好も、米株安のワケ --- 安田 佐和子

アゴラ

米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比28.8万人増となり、市場予想の21.8万人増を大幅に上回りました。前月の20.3万人増(19.2万人増から上方修正)もゆうに超え、2012年1月以来の高水準を達成しています。

しかしマーケットは米株安・米債高・ドル安で反応。ダウ平均は4月4日のザラ場高値の手前で失速、ドル円は4月8日以来初めて103円台に乗せるも一時的でした。

相場の反応を読み解くために、詳細を振り返ってみましょう。

NFPの内訳をみると、民間就労者数が27.3万人増となり市場予想の21.5万人増を上回った。前月の20.2万人増(19.2万人増から上方修正)も超え、2012年1月以来の強い伸びを達成している。特にサービスが22.0万人増と、前月の17.3万人増を上回り、足元で最高を遂げた。

▽サービスの主な内訳

・貿易/輸送 5.9万人増>前月は4.4万人増、4ヵ月ぶり高水準、

(そのうち小売は3.5万人増>前月は2.5万人増、2ヵ月連続で増加)

・金融 0.6万人増>前月は±0人

・ビジネス・サービス 7.5万人増>前月は5.2万人増

(そのうち派遣は2.4万人増<前月は2.5万人増、高い伸びを維持)

・教育・健康 4.0万人増>前月は3.7万人増、足元で最大

・娯楽・宿泊 2.8万人増<3.4万人増、増加トレンドを維持

・政府 1.5万人増>0.1万人増 3ヵ月連続で増加

(地方政府が支え、連邦政府は0.3万人減と4ヵ月連続で減少)

▽財政産業の主な内訳─5.3万人増となり前月の2.9万人増を上回った。4ヵ月連続で増加している。

・製造業 1.2万人増>0.7万人増 増加トレンドを維持

・建築 3.2万人増>1.7万人増 4ヵ月連続で増加

時間当たり平均労働賃金は、市場予想の0.2%の上昇より弱い±0%の24.31ドルだった。前月の0.1%を下回っている。前年比は市場予想および前月の2.1%以下の1.9%の上昇。4ヵ月ぶりに2%割れとなる。

週当たりの平均労働時間は市場予想および前月と同じく、34.5時間。34.3~34.5時間のレンジを保った。製造業の平均労働時間は、2007年以来の高水準を遂げた前月の41.1時間から40.8時間へ短縮した。

失業率は、市場予想の6.6%を下回る6.3%。前月の6.7%からも急低下し、2008年9月以来の水準を示現した。

・失業者数 前月比73.3万人減、前月の2.7万人増から大幅に減少

・雇用者数は7.3万人減と、前月の47.6万人増からマイナスに反転

・労働参加率は前月の63.2%から62.8%。2013年10月、12月に続き1978年3月以来の最低

労働人口の減少、ベビーブーマーの退職という構造要因で説明されがち。

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(出所 : Marketwatch)

失業率の急低下は、労働参加率が背景にあるというわけです。以上の内容を受け、強気派と弱気派の間でエコノミストも意見が分かれました。

(強気派)

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、結果を受け「278業種のうち67%が雇用の増加を報告し、12ヵ月平均をみるとNFPは月当たり19.8万人増となった」と説明。雇用増を踏まえると「1~3月期国内総生産(GDP)の鈍化は悪天候が主因で、4~6月期に成長が加速する見通しを裏付けた」と評価した。賃金の伸び悩みや労働参加率が低下したとはいえ、「経済の『たるみ』は順調に吸収されており、Fedはインフレ圧力が高まる前に先手を打つ必要性を意識し始めるのではないか」と見込む。その上で、第1弾の利上げは「当方の予想2015年4月より前倒し方向へ傾きつつある」とまとめた。

(弱気派)

BNPパリバのブリックリン・ドワイヤー米エコノミストとローラ・ロスナー米エコノミストは、今回の結果を受け「全般的に労働市場の回復を裏付ける内容」とコメントした。NFPの大幅増加に加え、不完全失業率や平均失業期間の短縮なども評価する。ただし、「労働参加率が低下していなければ、失業率は6.3%ではなく6.8%へ上昇していた」と指摘。賃金の伸びも芳しくなく、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の3月31日の講演に基づき、「労働市場は依然として『たるみ』が横たわる」と判断した。

イエレンFRB議長が挙げた労働市場のたるみを示す4つのポイントとは、

1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々)

2)賃金

3)失業者に占める長期失業者の割合

4)労働参加率

今回の結果を踏まえると、1)の不完全失業者は今回、3月741.1万人から746.5万人へ増加し労働力に占める割合も4.8%から4.7%へ上昇も、不完全失業率は12.3%と前月の12.7%から低下。2)の賃金をみると、4月は前年比で1.9%と3ヵ月ぶりに2%割れ。3)の長期失業者は今回345.2万人と、3月の373.9万人から減少、失業者に占める割合も前月の35.8%から35.3%へ低下。4)の労働参加率は今回62.8%と、1975以来の低水準──だった。

つまり 1)の長期失業者と3)の労働参加率の2点しかポジティブとは言えない。従ってイエレンFRB議長は7日に予定する米上下院合同経済委員会での議会証言で、引き続き労働市場に「たるみ」に言及すると見込まれる。その上で「利上げに忍耐強くなるだろう」と予想する。

以上を踏まえると、米株は雇用の伸びを好感も利上げ警戒と消費減速懸念で売り、米債は賃金インフレと労働参加率が「労働市場のたるみ」を反映し買い──反応したとみられます。ドルは素直に金利に反応してドル安を迎えました。

なおロイターによると、米短期金利先物市場は米4月雇用統計の結果発表直後に利上げ織り込み度が前倒ししされました。Fedが2015年6月に利上げに踏み切る確率は約56%となり、発表前の約47%から上昇していたのです。4月29日に情報公開法に基づくサンシャイン会合を開催し、「中期的な金融政策」について協議していたため、出口政策の手直しとともに徐々に利上げの地ならしを進めるとの見方を促したのでしょう。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番、ヒルゼンラス紙記者は米4月雇用統計の後に「米雇用指標、金融政策の変更促さず(Data won’t alter Fed Path)」の記事を配信。会合ごとに100億ドルの追加減額を決定する見通しと報じています。ただNFPの伸びを背景に、第1弾の利上げのタイミングについては「白熱するだろうが、結論は出ない見込む」とも付け加え、ややタカ派寄りへシフトしました。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年5月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。