韓国の珍島沖で起きた旅客船「セウォル号」沈没事故で朴槿恵大統領は遺族と国民に謝罪を表明したが、遺族対策会議は「朴大統領の国務会議での謝罪は非公開の場のものであり、謝罪ではない」(中央日報日本語電子版)と抗議したという。
聯合ニュースは5月1日、「韓国の世論調査で朴槿恵大統領の国政運営に対する支持率が40%台に低下した」と報じ、韓国社会で旅客船セウォル号沈没事故をめぐり政府批判が強まっているという。
朴大統領は事故発生直後、現場に駆け付け、遺族関係者を慰め、政府機関に迅速な対応を命令した。4月29日には国務会議で政府の対応の不備を詫び、謝罪を表明している。朴大統領としては可能な限りの対応を実施してきたという思いが強いだろう。しかし、国民の一部には大統領の対応を不十分として退陣要求の声すら出てきている。
中央日報によると、野党の李貞味正義党報道官は大統領の謝罪を「心からのものではなかった」と批判し、謝罪のやり直しを要求する有様だ。それに対し、大統領府報道官は「公式的には朴大統領の追加謝罪について考えていない」と指摘し、大統領の追加謝罪の予定はないと強調している、といった具合だ。
遺族対策関係者はどのような謝罪を大統領に期待しているのだろうか。非公開の国務会議の場ではなく、TVのカメラに向かって国民と遺族に対して大統領が謝罪すれば、それで関係者の心が落ち着くのだろうか。
謝罪はそれを表明する側とそれを受ける側の両者が納得しない限り、成立しない。一方的な謝罪は謝罪とはならない。「自分は既に謝罪済みだ」といっても、受け手が「君の謝罪を受け入れていない」といえば、謝罪は成立していないことになる。
遺族対策会議が「大統領の謝罪を不十分だ」と主張している限り、大統領の謝罪は成立していないことになる。
大統領府は国民や遺族関係者がどのような謝罪を求めているのかを知る必要があるだろう。具体的な経済的補償の約束か、それとも公の謝罪による名誉回復か、などだ。
しかし、問題は残る。謝罪ししたとしても状況の改善はあまり期待できないことだ。失った息子、娘を取り戻すことはできない。関係者が真心の謝罪を表明したとしても事態はその前と変わらないのだ。
遺族対策会議と大統領府の「謝罪」論争をみていると、否応なしに「正しい歴史認識問題」で対立する日韓の現状と重なってしまう。日本は謝罪を表明し、韓国側は日本側の謝罪は不十分として新たに謝罪を要求する、というパターンは今回の謝罪論争でも繰り返されている。
外遊先で日本の過去問題を批判する「告げ口外交」を展開し、日本に謝罪を要求してきた朴大統領は今回、謝罪が如何に難しい行為であるかを肌身で感じているのではないだろうか。
「謝罪」という行為は非常に人間的な業であり、それだけ難しい。痛みや傷口が癒えるためには時間が必要だ。謝罪は即効薬ではないからだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。