低インフレの原因を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

カナダの中央銀行総裁、ステファン・ポロズ氏が先ごろ講演した中で「低金利はニューノーマル」と発言しています。カナダ中銀はこの数年「金利は上がる、いや、上げる」といいながらそれが全く実現せず、オオカミ少年とも揶揄されました。その上、中銀総裁が昨年変わった途端、かなりのハト派(弱気派)振りを発揮し、カナダ経済の見通しは弱気一辺倒になっています。その中で低金利はニューノーマルと言われてしまえば、「ハトの時代」到来か、と思わせるのですが、背景を考えるとこれは日本を含め、先進国が低インフレから脱せない理由を見いだせるかもしれません。


カナダ中銀が今、最も注目しているのは個人の収入に対する負債比率であります。その負債はアメリカのバブル時期を凌ぐ水準で加熱しすぎた住宅市場に原因があると考えられています。それは元利返済に追われる一般家庭が多方面に消費を回せず、景気回復に影を落としているということでしょう。家庭が消費を切り詰めるとはスタバのコーヒー一杯、ランチのサンドウィッチの消費をどう減らすかというレベルであり、バケーションは家でじっとしているという家庭もかなり多いのであります。

カナダは他の主要国同様インフレ率は1%台にとどまっており、当面利上げはないと中銀総裁は明言しています。ところがこのインフレ率はコアでみており、物価変動率が高い食品は除いています。ガソリンはここバンクーバーは今年に入って25%上昇しています。つまりインフレはないのではなく局地的に起きているのです。ただ、価格が下がるものも多いため、インフレの計算のバスケットの中には上がるもの、下がるものが取り混ぜられて数値としては落ち着いているとされているのです。要は一種の計算のマジックといってもよいでしょう。

バスケットには運賃、酒、たばこ、医療、健康、医療、食品、衣料品、光熱費などなど様々入っているのですが、このバスケット通りに使う人がいるかどうか、というのが私の最大の疑問なのであります。

そして思うところは成熟経済国家のインフレ率がなぜ低いかといえばそれはバスケットに価格の下がりやすいアイテムも多く存在し、それが一般人の日常生活とリンクしていない可能性もあるということであります。

例えば、ある月のインフレ率は衣料品が2%下がり光熱費が3%上がったとします。この場合、多くの家計では光熱費が上がったので衣料品への出費は抑えようという心理が働きます。結果として家計は可処分所得のやり繰りの中で最大効用の配分ができず、我慢を強いられていることになります。しかし、この我慢分は指標としてどこにも出てこないのであります。これが私の言う「インフレの怪」であります。

これは勿論、日本でも起きています。先日、日本はインフレが低水準にとどまるディスインフレになると申し上げたのはバスケットの中身が時々入れ替えられる中で大きな価格下落必須アイテムが必ずそこに存在し、結果としてそれがインフレ率の足を大きくを引っ張っているということなのです。

例えば大胆予測をすれば、日本のインフレ率を下押しする次のアイテムは携帯電話使用料。これはSIMフリーを利用した新しい料金体系が普及すれば単純には携帯の月々のお金は半額まで落ちてもおかしくなく、長期的にこの下落がインフレ率の計算において悪役となるのです。

結論からすると日本はインフレになるアイテムとデフレになるアイテムが入り乱れますが消費者にとっては相殺された状態に落ち着き、かつ、限られた収入に見合う支出抑制コントロールができるということです。これがディスインフレではないでしょうか?

インフレの原因の一つは洋服が十分に行き届かなかった人にシャツ5枚、ジャケット2枚、靴下10枚…といった必需の消費が伴うことで起こりやすくなりますが、日本人のように「たんすの引き出しのストックで我慢すれば2年ぐらい洋服を買わなくても困らない」状態ならばインフレは起きにくいということではないかと思います。

ディスインフレとは成熟国家において支出コントロール、つまり、メリハリある支出ができる柔軟性を持った状態と解釈する方が正解ではないかと考えています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。