欧州文化は没落したか --- 長谷川 良

アゴラ

欧州ソング・コンテスト、ユーロヴィジョン(Eurovision)でオーストリア代表Conchita Wurst(コンチタ・ヴルスト)さんが優勝した直後、ロシアの民族主義者、ウラジーミル・ジリノフスキー氏は「欧州は終わった」と呟いたという。


コンチタ・ヴルスト氏は同性愛者であり、女性として振る舞い、生活している一方(夫である男性と住んでいる)、顎髭を付ける奇抜な姿でユーロ・ヴィジョンを制したことはこのコラム欄で書いたが、その衝撃度は多分、日本の読者には理解できないかもしれない。ヴルスト氏はその後、ヌード姿をメディアに流すなど、同性愛者としてメディアの寵児となっている。

そのヴルスト氏を大歓迎する欧州国民の姿をみて、ロシアの民族主義者は「欧州は終わった」と呟いたわけだ。換言すれば、2000年のキリスト教文化の結集でもある欧州文化が越えてはならない一線を越えてしまったという指摘かもしれない。

独週刊誌シュピーゲル最新号はヴルスト氏の登場を単なる同性愛者歌手の凱旋という次元ではなく、社会現象として報道している。同誌は「ヴルスト氏を応援する人々は欧州文化の寛容さを意味し、没落ではないと受け止めているが、欧州では寛容と退廃(デカダン)は常に結びついてきた」と述べている。

ところで、ウクライナ危機は、同国が欧州統合に参画するか、ロシアとの共存を図るかの路線問題が直接の契機だった。5月25日の大統領選はその路線紛争に決着をつける政治的イベントと考えられている。

問題は、ウクライナ国民が統合を願う欧州のアイデンティティ、価値観とは何か、という素朴な問いかけだ。ウクライナ国民はヴルスト氏を寛容さで包み込む欧州文化の一員となりたいのか。単なる経済的恩恵を享受したいだけなのだろうか。

ヴルスト氏の勝利に歓喜する人々の姿を見た初老のウクライナ人は「これではっきりとした。われわれはロシアに統合する」と叫んでいる姿がTV画面に映っていた。

ロシアのプーチン大統領の最側近、ロシア鉄道総裁のウラジーミル・ヤクニン氏はヴルスト氏の登場を「低俗な民族的ファシズム」「欧州文化の没落」とデカダン的な西欧を論評している(シュピーゲル誌)。

ちなみに、英歴史学者トニー・ジャットは「欧州(EU)は元々、恐れと不安から創設された機関であり、強さや楽観主義の象徴ではなかった。そして経済とその福祉が政治に代わって欧州の重要目標とされてきた」という。

「欧州機関の民主主義の欠陥は今日、外からはロシアのプーチン大統領に、内からは極右ポピュリストたちの攻撃にさらされる結果となっている」という(独誌シュピーゲル)。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。