改革派法王下で初の破門者が出た --- 長谷川 良

アゴラ

ローマ・カトリック教会の教会法カノン1379に基づき、教会改革運動を主導してきた信者代表で宗教教育学者マルタ・ハイツァー(Martha Heizer、67)さんが5月22日、夫と共に教会から破門宣言を受けた。

破門を受けた聖職者、信者たちは今後、サクラメント(聖体拝領)を受けることができなくなるうえ、教会による婚姻、埋葬などは許されなくなる。


ハイツァー夫妻は、南米教会初のローマ法王として就任以来、教会内外で人気があるフランシスコ法王下で初の破門者となる。それも法王と同じように教会の刷新を訴えてきたインスブルック教区の平信者グループ「わたしたちは教会」リーダーが破門されたのだ。

同代表夫婦は2011年9月、自宅で家庭礼拝をし、神父の不在の下、聖体拝領を行ったことから、それが教会法に違反する、というのが破門理由だ。

ハイツァー代表は「私たち夫婦は未成年者への性的虐待をした聖職者と同じように扱われた」と強く反発している。

バチカン側の情報によると、今回の破門決定にはローマ法王は一切関与せず、担当教区のマンフレッド・ショィヤー司教(Manfred Scheuer)が決定したという。

同司教は当時、バチカン教理省にハイツァー夫婦の家庭教会の件を報告。教理省は教区で事実関係を調査して対応するようにと通達した経緯がある。だから、バチカンが主張するように、フランシスコ法王はこの破門決定には一切関わっていないことになるが、司教による破門決定は法王にも事前に報告されたことは間違いないだろう。

教会法では、破門された信者や聖職者が悔い改めた場合、破門破棄の道はいつでも開かれている。代表は「悔い改めることはない。家庭内礼拝で聖体拝領を実施することは素晴らしいことだ」と主張し、「自分は依然カトリック教会の信者であり、礼拝にも参加するし、教会税も払い続ける」という。

ちなみに、「われわれは教会」運動はこれまでも女性聖職者の任命や聖職者の独身制の破棄などを要求してきた。

オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿はインスブルック教区司教の決定を支持、「教会全体の規律を破壊するもので到底受け入れられない」と指摘している。

家庭教会で神父ではなく、信者代表が礼拝を主導し、聖体拝領などを行うことはフランシスコ法王の出身地、南米教会ではよく見られる現象だ。なぜならば、聖職者不足が深刻で、教区に礼拝をする聖職者がいないからだ。

信者の家庭で礼拝が行われ、そこで信者の代表が神父の権限でサクラメントを行うようになれば、聖職者不足は解決できるが、教会の存在意義は失われる。教会中心の信仰生活から信者たちの主導的な家庭教会が強化されれば、教会機構の抜本的変化を意味するだけに、清貧の教えを説くフランシスコ法王も認めることはできないわけだ。

バチカン放送独語電子版は5月23日、オーストリア教会の破門報道に関して3本の記事を掲載している。フランシスコ法王の中東巡礼に重なったこともあって、メディアの関心は目下少ないが、教会改革運動代表の破門は教会の在り方を問う大きな問題だ。扱い次第では教会機構が吹っ飛んでしまうほどの深刻なテーマなのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。