「アナと雪の女王」とバカボンのパパの共通点 --- 内藤 忍

アゴラ

アニメ映画「アナと雪の女王」の興行収入が200億円を突破し。歴代3位になったそうです。ちなみに、1位は「千と千尋の神隠し」の304億円、2位は「タイタニック」の252億円ですから、まだこれらの映画を抜いてしまう可能性もあると思います。

アニメ映画は、最後に見たのが宇宙戦艦ヤマト(!)という位、ほとんど見ないのですが、NY行きのフライトで、何と3回も繰り返して見てしまいました(今更ですが……)。最初は、素直に感動できる映画作品として、そして2回目、3回目はどこにそんなに人気があるのかを知りたくて、探究心から見てみました。


確かに、とても良くできた映画です。音楽もキャッチーなメロディで覚えやすいし、登場人物も愛嬌があって、何とも人間的で魅力的。ストーリーも意外性があって、子供だけではなく大人が見ても充分感動できる内容です。アニメということで正直少し馬鹿にしていたのですが、「深み」を感じ、何だか元気になれるアニメでした。

この作品の根底に流れるテーマは何なのでしょうか?

男性との恋に落ちることのない孤独な主人公のエルサが歌う「レット・イット・ゴー」が、同性愛をカミングアウトしているという見方をする人がいます。またこの作品は、自己犠牲の尊さを説く非常にキリスト教的な内容であると指摘する学者もいるようです。確かに、男女間に限らない広い意味での「愛」が重要なテーマの1つであるというのは、納得できます。

しかし、この映画にこれだけの人気が集まった最大の理由は、自己肯定ではないかと思います。声を大にして「自己肯定」する主人公への共感が大きな人気につながったのです。

主題歌の「Let it go」は「ありのままに」と訳されていますが、完璧ではない自分の現状をこれで良いんだと肯定する主人公の勇気と迷いの無い清々しさに、自分を重ね合わせ、主題歌を一緒に歌って、自分を肯定する。その快感が、映画への支持につながっているように思います。多様な生き方があって、どれが正しいとか間違っているというのはない。自分のやっていることを信じてやれば良いという強いメッセージです。

そう考えた時、私の頭に浮かんだのが、バカボンのパパのキメ台詞「これでいいのだ」でした。

型にはめられて、その中でしか生きられない世の中は、息苦しく、ストレスのたまるものです。しかし、自分がいかに世間から異端視されても「これでいいのだ」と自己肯定してしまうバカボンのパパは、「アナと雪の女王」のテーマと根本は同じです。

価値観が多様化して、今まで価値があったものが無くなり、価値がなかったものが尊重されたりする。絶対的な価値観が見つけられない社会においては、自分が正しいと思う価値を勇気を持って、信じ続けることが唯一の方法になります。

アプローチの仕方はまったく違いますが、画一的な価値観が当たり前だった40年以上前の日本において、既に自己肯定を繰り返すキャラクターを生み出していた、赤塚不二夫氏の先見性と才能。日本人のクリエイティビティの高さは、やはり世界最高水準です。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2014年6月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。