著作権について思うこと。その4 --- 中村 伊知哉

2014年06月30日 08:05

著作権法ではなく、より広義のコンテンツ政策で解決する話を申し上げました。

コンテンツ政策と言っても、法律で解決する手段もあります。2010年には通信・放送法制10本を抜本改正しました。電波の規制を緩和し、放送電波で通信を行うなど、世界一とも言える柔軟な制度に改めました。ぼくはその議論の急先鋒でした。2006年にスタートした議論で、ぼくは総務省の委員会に対し、通信放送のタテ割りをインフラ、サービス、コンテンツの横割りにして10本を1本の「情報通信法」に抜本改正する案を提出しました。


これはかなり物議をかもし、あちこちから批判も受け、火だるまになりました。でも数年の論議を経て、ほぼその方向に結論は収束し、制度化に至りました。その頃から強調していたのは、それはコンテンツの流通と利用を促進する措置だということ。抜本改正時にしかできない規制緩和を断行して、情報の生産・流通・利用を活性化するという考えのものでした。

制度論議の途中でも、実験措置として、ユビキタス特区を設けてもらい、地域限定で規制緩和による効果の検証も行いました。その後、ホワイトスペース特区も設け、制度的な枠を広げてもらっています。ケータイのwifiでテレビが見られたり、放送の電波を使って新聞紙面が送られてきたり、そうしたサービスが実現しています。

逆にネックとなっているのが著作権です。著作権法上、通信と放送の扱いが異なるため、一つのサービスを通信・放送の両方で扱おうとすると、処理が厄介です。おおもとの通信・放送制度は大改正をしても、著作権法制度は動きません。著作権法の学会では何か動きはありますか?

政策にはいろいろなアプローチがあります。文化庁や総務省といった行政ががんばるだけでなく、立法もあれば司法もあります。国会でルール化してもらったり、裁判で決着つけたりする。また、特区で実験したり、予算をつけて研究開発したりすることもあります。税制措置で企業を誘導することもあります。電波利用料などの財源を活用することもあります。

ところが、著作権の世界だけは、著作権法の中で考えようとするクセがあります。録音録画補償金は典型ですね。ハードからソフトへの資金移動、権利者保護のための利益還元ということが狙いであれば、著作権制度を使わなくても、実証や基盤整備などの名目で、いろんな資金スキームが考えられるのに。

逆に、著作権制度では、孤児著作物が最もホットなイシューになります。過去の知的資産をデジタル時代にどう活かすか、という大問題です。欧米は利用促進に向け自覚的に動いています。ただ、本件が難しいのは、国家vs Googleの構図になるという点。国家政策とグローバル企業との折り合いをどうつけるか。日本は裁定制度をどう使いやすくするかという改善策での議論になっていますが、これもそこにとどまらない基本戦略の問題です。著作権法のメタ問題。

著作権制度の論議に参加してもう一つ思うのは、非科学的な議論が多いという点です。とてもデータが少ない。他の分野では、規制や制度を変更するときは、その影響を徹底的にデータでシミュレーションして、変更する公益が現状維持を上回るときに決断がなされます。でもぼくが参加した案件のほとんどで、そうした議論はありませんでした。

制度変更を唱える側が、そうしなければ受ける損失、制度変更による市場の拡大、利用者にとってのメリット・デメリットなどを想定数値で出し、反対側が反証し、それを第三者が論議して決する、通常の行政現場で行われるそうした議論に出会うケースは少ないです。

逆に、ある権利の強化を求める委員会で、結論を急ぐ業界代表に対して、その改正によってどれくらいコンテンツの流通が増え、市場はどれぐらい広がるのか問うたところ、「影響はわからない」と即答され、腰を抜かしたことがあります。

著作権制度を議論する審議会に経済学者の姿は見られません。このところぼくもそうした場に足を踏み入れていないから現状は知りませんが、結局、違法ダウンロード罰則化によって、コンテンツはどう動き、市場はどうなり、事業者利益と利用者利益にどう影響があったのか、その検証ぐらいは終わってるんでしょうねぇ。

さて、そんな話をブツブツしていたら、司会者から「そういうアンタはいつまでこの問題に携わってるんだ」という、ぼくにとって実に本質的な問いをいただきました。

そうですよ。いつまでやってんだオマエは、ってことですよ。クールジャパンではボコボコにされ、デジタル教科書ではボコボコにされ、「文化省」設立を唱えてはボコボコにされ、それをまぁ10年ぐらいやっておるのですが、それでも攻める政策屋ってのは、ぼくの他にどれくらいいるんだろう。割に合わないですからね。いないかもですね。

フォーラム参加のみなさん、やっぱりちゃんとした学者になったほうが食えていいですよ。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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