ケータイがテレビになります。 --- 中村 伊知哉

2014年07月07日 09:34

スマートテレビが動いています。

NHK「ハイブリッドキャスト」がサービスを開始。民放は在阪テレビ局が中心となった「マルチスクリーン型放送研究会」がセカンドスクリーン連携システムの実証を続けています。日本テレビ「JoinTV」、フジテレビ「メディアトリガー」など、テレビ局個社によるセカンドスクリーン対策、ソーシャルメディア連携策も厚くなってきました。


民放と通信会社とが連携したmmbi「NOTTV」や、NTTドコモ「SmartTVdstick」のようにケータイ3社によるスマートテレビ事業も始動。放送と通信をまたがる動きも本格化してきました。エフエム東京が中心となり、V-Low周波数帯域を使った「マルチメディア放送」も始まろうとしています。

そして日テレがhuluの日本事業を買収。動きは国際化しています。

この3年、民放連ネット・デジタル研究会の座長として動きを見てきました。3年前は、GoogleTVやApple TVなど黒船来航に日本の業界は右往左往しました。2年前には、セカンドスクリーンという日本型のスマートテレビの姿がアメリカ型に対抗し得るという議論となりました。

そしてこの1年はもうアメリカの話題は影を潜め、日本でのスマートテレビを放送局がいかにビジネスにするかという論議になっています。まだまだビジネスは成立していませんが、放送局がトライアルを通じて、展望とまで行かなくとも、感触をつかみつつあるように見えます。

3年前の動きは、「ITからテレビへ」の接近でした。米IT企業がテレビ受像機をネットに取り込む。だから放送業界は身構えました。2年前の動きは「ITとテレビ」の両立作戦。テレビ受像機とIT=スマホというダブルスクリーンでのサービスが期待されました。

テレビとソーシャルメディアとの連携は一層強まります。テレビ画面を見ながらスマホでチャットしたり、テレビ番組に連動したクーポンがスマホに落ちてきたりするサービスは拡充するでしょう。パブリックビューイングでみんなで騒ぎつつ、スマホで応援メッセージを送るといった参加型の視聴も広がると思います。

しかし同時に、この動きは次の段階を迎えつつあります。マルチスクリーンは、テレビ、PC、モバイルの垣根をなくします。テレビが第一スクリーンでモバイルが第二、といった序列は崩れ、モバイル=スマホが第一スクリーンの位置を占めつつあります。そしてサービスは急速にボーダレス化しています。それは端末フリーを促します。どの国のどの種類の端末でも簡単に使えるサービスが生き残ります。

それは、どんなスマホでも世界のテレビが見られることを求めます。テレビ局からみれば、テレビがwifiで全てのスマホに流れることが促されます。2020年の東京では、世界中の旅行者が自分のスマホでwifiで日本のテレビを観る環境になっているのではないでしょうか。

ぼくが代表を務める「IPDCフォーラム」は2013年8月、HLS:HTTP Live Streaming配信実験を公開しました。TBSテレビのエリア放送設備を利用し、IP放送→wifiにより、スマホのブラウザでHDTVが見られるというものです。地上波を使った4K配信を狙っています。

これは「テレビからITへ」の動きによって実現します。テレビ局がITをいかに使いこなすかがカギ。チャンス到来ではないでしょうか。

さて、「リモート視聴」にも動きがあるので付言しておきます。

リモート視聴。テレビ受像機やレコーダーで受信した放送中のテレビ番組や録画番組を、インターネット経由で外出先のモバイル端末で視聴できるIP再配信機能です。次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)がその技術要件を公開しました。

業界全体がリモート視聴、IP再配信に乗り出したことには意義があります。

IP再配信はこれまで、放送局や権利者の消極姿勢もあり、本格化しませんでした。一方、映像配信はYouTubeやAppleなどアメリカ勢が主導。結局、放送局は裁判などを通じ、自らのビジネスを守れると思いきや、海外のサーバにごっそりと奪われかねない状況です。

そうでなくても若い世代は外出先でLINEなどソーシャルメディアに夢中。その耳目をテレビに取り戻すのは容易ではありません。

この状況を放送局自ら改善しようとするのが今回の動きです。

しかし、問題もあります。利用者からみて魅力的か、という点です。

1) 制約の多さ

今回の要件には利用面の制約が多い(ペアリングは宅内、有効期間は最長3カ月、子機の台数は6台、同時にリモート視聴できる子機は1台、子機へのコピー/ムーブは禁止、リモート視聴以外のバナーやアイコンなどの同時表示などを行なわない等)。

既にネットユーザは違法アップロードされたものも含め、映像をYouTubeなどでマルチデバイス視聴しています。正当なコンテンツ利用とはいえ、使い勝手に劣るサービスに利用者がメリットを感じるかどうか。

2) 通信量

テレビからモバイル端末への通信量は大きいです。LTEなどの通信量の制限を簡単に超えてしまいかねません。利用者は躊躇なくリモート視聴するでしょうか。
(システム面からみても、個々のテレビ端末から個々のモバイル端末に映像を送るというのはウルトラ非効率。放送であれ通信(LTE、wifi)であれ、サーバから端末に送る配信システムを上回るメリットは何でしょうか。)

3) 端末コスト

どうやら日本独自のガラパゴス規格になりそうです。それを搭載する機器のコストアップは、利用者にとって値打ちがあるものかどうか。

こうした課題をできるだけ解消し、よりよい機能が提供されることを期待します。リモート視聴という利用者の利便性向上に一歩踏み出した関係者の努力を多としたいところです。

しかし、利用者側に正面から向き合わなければ、海外のIT企業やソーシャルメディアに市場をまるごと狙われるという構図は解消しないと考えます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年7月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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