米国は「正義」よりも「武力行使の不拡大」を追求すべき

2014年07月28日 09:12

オバマ大統領の人気が急速に落ちている。「弱い大統領」というイメージが定着しつつあるからだろう。医療制度の問題で躓いた事に始まり、現在の経済運営に不満を持つどちらの層からも失望の声が聞こえるのも事実だが、やはり外交で点が稼げない事が一番影響しているような気がする。

私自身は、現在の状況下で米国民が自国の大統領に過大な期待をかける事自体に、そもそも無理があると思っているが、本当に信念を持った大統領なら、産軍複合体や選挙参謀の反対を押し切って「違ったやり方をする」事があってもよいのではないかとも思う。


まずパレスチナ。9.11で勢いを得たイスラエルの右翼政権がやり過ぎているのは間違いない。もちろん、イスラエルの存在自体を認めず、「一人残らず海に追い落とす」と公言しているイスラム過激派勢力と対峙している限りは、ある程度の強硬姿勢をとらざるを得ない事は理解するが、現政権に「和平への忍耐強い努力」の姿勢が不足している事は明らかだ。イスラエルの現政権のこのような姿勢を放置すれば、「憎悪の応酬」と「報復の連鎖」は、とどまる所を知らなくなってしまう。

ハマスが国連学校の中にロケット弾を隠していたのはどうやら事実のようだから、「この学校を軍事攻撃の目標とされても仕方のない状況」をつくったハマスに、イスラエルの砲撃を非人道的だと声高に非難する資格はない。しかし、だからといって、イスラエルが学校を砲撃したのは明らかに間違っている。元々の原因はどこにあろうと、実際に砲撃で民間人や子供たちが殺されれば、誰でもがまずは砲撃したイスラエルを非難するのは当然だからだ。

ここで問題なのは、是非善悪の問題をしばらく脇におくとして、「イスラエルの強硬策がエスカレートすれば、『アラブの大義』の下で団結する人たちの勢力が世界規模で増大するのは避けられない」という事だ。こうなれば、世界は極めて不安定になってしまう。それは、米国が何としても回避したい事態である筈だ。

9.11が米国民を憤激させた事は理解出来るが、米国民はその背景をもっとよく理解しようと努力すべきだ。自分たちの単純な「勧善懲悪」の世界観だけで世界の様々な問題が仕切れると考えているとすれば、それは間違っている。

米国人は「不特定多数の民間人を対象とするテロ」を最も卑劣な行為だとして憎しみの対象とするが、米国の軍事力が圧倒的な優位性を持っている現状下で、軍事力を持たない国やグループが米国のやり方にあくまで反対しようとすれば、これしか手段がないのも事実だ。米国はテロ組織を単純に「悪魔」だと決め付ける前に、自らのまいた種の事も考える必要がある。

(これは、皮肉にも、イスラエルの国連学校砲撃を「テロ行為」だとした場合、自分たちが「そこに砲弾を隠したハマス」に例えられる事を意味する。)

次にウクライナだ。ウクライナはれっきとした独立国なのだから、国内での民族的な軋轢も国内問題だ。政府が主権を代表する訳だから、それに反対する勢力が武力を行使すればそれは内乱であり、それに他国が武器等を供与すれば、明らかに主権の侵害になる。

(事の善悪は別として、例えば中国は、この事でロシアを擁護するわけにはいかない筈だ。そうなれば諸外国が中国内のウィグル族にどんどん武器弾薬を供給する事を容認する事になるからだ。)

ウクライナ国内の親露派に兵器を供給しているロシアを、欧米諸国が非難して、対露制裁に踏み切るのは当然だ。しかし、この効果には自ずから限界があるのに加えて、フランスやドイツはおろか自国の石油業者までが商業上の配慮を優先させて、足並みを乱れさせているのだから、米国民の気持ちはすっきりしないだろう。ではどうすれば良いのかと問われても、良い答えはなかなか思いつかないと思う。

ここにマレーシア航空機の撃墜事件が起こった。この責任が親露派にあることはほぼ間違いなく、凶器となった地対空ミサイルを供与したロシアにも責任が及ぶ事は避けられない。これに対してロシアは、「そもそもウクライナ政府が停戦に応じなかったからこういう悲劇が起こったのであり、責任はむしろウクライナ政府にある」と強弁しているが、これは誰が見ても盗人猛々しい。しかし、それでは、米国にこれ以上の何が出来るかと言えば、ここでも良いアイデアはなかなか見当たらない。

イラクやシリアにおけるスンニ派の武装勢力の問題は更に複雑で、米国としては何についても確信が持てず、無力感に苛まれている状況になっているのではないだろうか? そもそもは、イラクにおける多数派であるシーア派が少数派のスンニ派を極端に差別した事と、欧米が支援したシリアの反アサド武装組織の人員や武器がイラクに流れ込んだ事が、現在の非常事態の原因なのだから、米国は、誰を責め、誰を擁護すればよいのか困っている事だろう。

さて、このような状況下で、私がオバマ大統領に提言出来る事があるとすれば、それは「『正義』の問題はひとまず不問にして、『武力行使の不拡大』を最優先にする」という事だ。

復讐が連鎖しているケースでは、双方とも「正義は自分たちの側にある」と確信しており、特に宗教が絡む場合には、これは「正義」以上のものになる。また、いずれの側も被害者意識が先行しているので、国民は「戦争状態」になればなる程、自国政府の「妥協」を許さず、常に「愛国心」を鼓舞する側に加担する。だから、より冷静になれる第三国側は、「善を助け、悪を懲らす」のではなく、「嫌がる当事国に妥協を強制する」事をこそ主眼とするべきだ。

さて、中近東やウクライナでの事は、大方の日本人には対岸の火事に見えるかもしれないが、アジアの状況もかなり危うい。若い独裁者の地位が不安定な北朝鮮は、いつ暴発してもおかしくない状態だし、これに対する最大の抑止力を持っている中国自体が、国内に大きな問題を抱え、「大中華主義」で国民の意識を外に向ける誘惑に駆られている。

また、抑止力の一翼を担う事を期待されている日本までが、長年の「穏健路線」の反動ゆえか、「国家主義」復活の誘惑に駆られて、「反中」「嫌韓」の傾向を募らせている。このような日本の姿勢は、日本国民からすれば、おおむね「当然の事」として支持されているようだが、米国からすれば、韓国を必要以上に中国に擦り寄らせる大きな要因の一つにもなっており、「頭痛の種」以外の何者でもない。

(これは、「自らの対露戦略がロシアを必要以上に中国に擦り寄らせている」のと同じ事なのだが、この事に対する自省は米国にはあまりない。)

米国にすれば、日本の「自衛力強化」「集団自衛権の確立」「武器輸出の解禁」は喜ばしい事だが、「歴史認識の見直し」や「靖国参拝」は、全く要らぬ事であり、「何故、今のこの時に?」と頭をかきむしりたいぐらいだろう(韓国の「しつこい反日行動」に対しても同様の思いである筈だが、「歴史認識」や「慰安婦問題」については、韓国側に立つ方が米国民にとっては受け入れ易いので、日本の要請に従って「韓国を嗜める」ところまではとても行きそうにない)。

私としても、ここで困った事になる。中近東やウクライナでは、米国は「正義(欧米の価値観)の追求は程々にして欲しい」と考えているのに、極東では「あくまで欧米の価値観を前面に押し出し、中国に対する下手な妥協はして欲しくない」からだ。

しかし、ここで、日本政府も慎重に考える必要がある。米国政府の高官と普通に話していれば、「米国の対中強硬姿勢は堅持される筈」と信じるだろうが、米国の考えはいつ突然変わるかわからない。これだけ多くの地域でこれだけ多くの問題を抱えたら、彼等とて戦線を縮小したくなるのは当然だし、もし彼等が何等かの妥協を余儀なくされるとすれば、中近東やウクライナではなく、むしろアジアにおいてであろうと思われるからだ。

このような状況下では、日本政府もこのリスクは十分に認識し、「国民の人気を煽りたい」という誘惑に負けずに、水面下で色々な「妥協」の道を模索すべきだ。私の言う「妥協」とは、具体的には「国家主義鼓舞(復古主義)の抑制」と「尖閣問題の後送り」だ。

(皆様すでにご承知の通り、私は、外交的に百害あって一利もない「首相による靖国参拝」は論外と考えている。一方、韓国については、彼等の反日的な言動を当面は「柳に風」と受け流し、何事によらず「迎合」はせず、むしろ「冷淡」に対応して、彼等自身に「『反日』を競い合ってみても、韓国民にとっては百害あって一利もない」と考え直す時間を与えるのが一番良いと考えている。)

多くの人たちがこのような私の言説を「弱腰」「卑屈」と詰めより、「売国」という言葉まで使って攻撃してくる事は目に見えているが、真の「危機管理」とは、こういう「苦い選択」によって初めて実現できるものだという事を理解して欲しい。現在我々日本人の目の前にある「危機」は、実はそれだけ大きいという事だ。

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