ポジティブ社畜 セコい愛社行為がナチュラルに出る人たち

常見 陽平

出張で大阪に行っていた。ホテルにチェックインする時に、ふと気づいた。自分が10年間にわたり、必ずある言葉を発していることに。それは、「リクルートのじゃらんnetで予約した常見陽平です」と名乗ることである。別に予約手段など言わなくていいのに。


そう、10年前、私はこのサービスの営業企画担当者をしていた。少しでもホテルの担当者に「じゃらんnetは効果あるんだな」と思ってもらうための意地らしい、セコい努力である。

いや、普通、宿泊施設はどのルートでの予約なのか当然、集計しているのだけど。とはいえ、「じゃらんnetで、集客できてる!」と思ってもらうための意地らしい、セコい知恵なのだ。

リクルートを退職してもう十年近くになるが、それでも続けているのは、それだけこのサービスが本当に好きだからなのだろう。いや、いまさらやめたら、負けだと思うからか。ちょうど9月に同社を検証した『リクルートという幻想』という本を出すのだが(いったん書き上げて熟成中)、この本で半分批判し、半分礼賛しているように、やはり同社のことが半分くらいは好きなのだろう、私は。

そういえば、一緒に仕事をしていた元ビール会社の方は当時、自宅でゴミを捨てる際、できるだけ分けて捨てるようにしてると言ってたっけ。その会社のビールが売れていることを近所の方にアピールするためである。

サッポロビールの採用担当者はメールをする度に自社製品のことを熱く書いてくる。私が札幌出身で、サッポロビールが好きだということを知ってのことである。

昨日、関西でプライベートな飲み会があったのだが、参加していた森永製菓の若手社員、およびエーデルワイスの方は、自社の商品がいかに優れているか、今後のトレンドについて、熱く語っていた。何かこう、嬉しかった。

こういう、大の大人がいかに自社の製品が優れているか、売れているかとアピールするのは、社畜の成れの果てのようだが、これがナチュラルに行われているとしたなら、社員から愛されている会社なんじゃないかと思う。

会社の悪口というのも酒の最高の肴ではあるが、こういうポジティブ社畜発言は聞いていて嬉しくなる。

私は来年の3月末まではフリーランスだが、それでも、一緒に仕事をしてる企業などのことを熱く語ってしまうことがある。

いかに、非常勤講師をしている大学、千葉商科大学の学生が気持ちいいか、杏林大学の学生が熱心か、武蔵野美術大学の学生が面白いか、これらの大学のスタッフがいかに気持ちいいか、という話をする。いかに、いま仕事をしている出版社と編集者が優秀か。仕事をしているニュースサイトにいかに熱を感じるか(特に、NEWSポストセブン、しらべえ、All About News Digの関係者は熱を感じる)。TBSラジオ文化系トークラジオLife、Session-22の出演者、スタッフが、いかに熱く優れているか、などである。

会社を辞めた後の方が、社畜的な日々を送っているのだが、ビジネス・パートナーに恵まれているというのもあるし、面白い仕事をさせてもらっているのだと思う。

やや、話がそれた。

中には、従業員に商品の販促などを強要する企業もあるのだけど、ナチュラルに愛社行為が出てくる企業の方は気持ちいい。逆にこれらが儀礼的になる企業というのは、何かこう、おかしくなっているのだろう。もっとも、ナチュラルな行為だと思いつつ、会社に踊らされているのかも知れないのだけど。

あなたの会社、取引先は、どれだけこういうポジティブ社畜がいるだろうか。セコいナチュラル愛社行為が出てくるだろうか。