「STAP細胞」騒動について天国のアインシュタインから届いた手紙

北村 隆司

天国から「STAP細胞」騒動を見ていたアインシュタイン博士から、こんな手紙が届きました。

小保方さんへ :

僅か半年の間に日本のアイドルから、研究不正の首謀者の疑いを受けるまで転落した貴女の未来は、かなり厳しい事が予想されますが、科学への情熱と卓越した想像力さえ失わなければ道は開けます。先輩として貴女に申しあげたい事は:

  1. 科学の世界で唯一本当に価値あるものは、直感である事(The only real valuable thing is intuition)。
  2. しかし、研究のルールを確り身につけ、誰よりも上手く活用することも極めて重要です(You have to learn the rules of the game. And then you have to play better than anyone else)。
  3. だからと言って、ルールに従い同じ事を繰り返して違った結果を期待するとしたら、それは狂気の沙汰です(Insanity: doing the same thing over and over again and expecting different results)
  4. そして今後は、成功者ではなく価値ある人間を目指して下さい(Try not to become a man of success, but rather try to become a man of value.)。


理研幹部(理事)の皆様へ

科学の世界では少し名が知られ、世紀の天才などと煽てられた私ですが、厳しい規則と厳格な秩序を誇る日本に生まれ育っていたら、業績を上げる機会は与えられなかったに違いありません。

と申しますのは、言語障害者(ディスレクシア)であった私は、全体を把握する事は得意でも知識を溜め込む事が苦手なため、大学入試や就職にも失敗しましたが、「棄てる神あれば、拾う神あり」という環境に恵まれ、第二、第三の機会を与えられたた幸運の持ち主だからです。

一芸に秀でている事(数学、物理の成績が抜群だった)を認めて入学を許してくれたギムナジウムに第二の機会を与えられ、その自由な校風と充実した言語障害者用の視覚教育のお陰で、卒業後には先に入試に失敗したチューリッヒ連邦工科大学への入学も許されました。しかし、工科大学卒業後は助手に採用して貰えませんでしたが、友人の父親のコネで特許庁に採用される第三の機会を与えられました。

カリキュラムに従った筆記試験が苦手で、入試や就職に失敗しながら独特の発想力や一芸に秀でた点を買われて第二の機会を与えられた人間は、私だけでなく、チャーチル、エジソン、ホーキンス博士、ネルソン・ロックフェラーなど多数おります。

学業は余り優れなくとも「特異な才能」を見抜く指導者に恵まれて科学者としてスタート出来た人間として、「エリート集団」を率いる皆様に、私の考えを幾つかの言葉にまとめてお贈りしたいと思います。

  1. 我々が良く陥る大きな問題は、やり方は完全でも目標がはっきりしない事です(A perfection of means, and confusion of aims, seems to be our main problem)。
  2. もし、私に優れたアイデアを記録したノートを取っているかと問われれば、生涯で持ったノートは一冊しかないとお答えするしかありません(You ask me if I keep a notebook to record my great ideas. I’ve only ever had one)。
  3. 真っ赤に焼けたストーブの上に手をかざせば、一分が一時間のように永く感じ、美しい女性と一緒に過ごすと一時間が一分に思えるように、研究組織の風土はその成果を左右します(Put your hand on a hot stove for a minute and it seems like an hour. Sit with a pretty girl for an hour, and it seems like a minute.)。
  4. 知識を溜め込む事が苦手な私が申し上げるのは問題ですが、脳を使わず本を読みすぎる人は、物を考える事が面倒臭くなる傾向があります(Any man who reads too much and uses his own brain too little falls into lazy habits of thinking)。
  5. そして、人間社会にとって価値ある事はすべからく、その発展に寄与する個々人に賦与される機会に依存している事を忘れないで下さい(All that is valuable in human society depends upon the opportunity for development accorded the individual.)。

日本の報道機関の皆様へ

情報化の進んだ世界ですが、STAP細胞の報道を観察して、日本と欧米の報道姿勢は大きく異なる事を痛感しました。私が正しいとは限りませんが、幾つか感じた事をお伝えしたいと思います。

  1. 日本の報道界に先ず申し上げたい事は、全ての人々は個人として尊重されなければなりませんが、何人たりともアイドル化してはいけないと言う事です(Everyone should be respected as an individual, but no one idolized)。
  2. 大抵の人々は、知力が偉大な科学者を生むと信じ勝ちですが、それは間違いで、偉大な科学者を生むのは人格です(Most people say that it is the intellect which makes a great scientist. They are wrong: it is character.)。
  3. 又、情報と知識は違うことも認識して置いて下さい(Information is not knowledge)。
  4. 本当の知恵は、知識ではなく想像力にあります。何故かと言えば、論理はA地点からB地点まで導くだけですが、想像力は人を何処へでも導いてくれるからです(The true sign of intelligence is not knowledge but imagination. Logic will get you from A to B. Imagination will take you everywhere)。
  5. 問題を解決するのがインテリであっても、問題の発生を防ぐのは天才です(Intellectuals solve problems, geniuses prevent them)。
  6. 学校教育が好奇心を殺さないとしたら奇跡と言うべきで、私の学習の唯一の妨げは、私の学校教育でした(It is a miracle that curiosity survives formal education. The only thing that interferes with my learning is my education)。
  7. と申しますのは、常に新しい疑問を投げかけ、新しい可能性を探り、古くからある問題に新しい角度から検討を加え続けるには独創的な想像力が必要であり、それが本当の意味での科学の進歩を記すものである筈ですが、これは学校教育の最も苦手にする事だからです(To raise new questions, new possibilities, to regard old problems from a new angle, requires creative imagination and marks real advance in science)。

以上、既成観念に拘る傾向が強いと思われる日本の報道機関の皆様に、既成観念(価値観を含む)は科学の発展や進歩の大きな妨げになる事をご理解いただきたいと考えて申し述べた次第です。

日本の国民の皆様へ

科学立国を目指し教育熱心な日本の皆様に、重要だと思われる事を幾つかお伝えしたいと思います:

  1. 失敗に厳しい事は科学の敵です。と申しますのは、絶対に失敗しない人は、何も新しい事を試みない人だからです(A person who never made a mistake never tried anything new.)。
  2. 科学立国は歓迎しますが、国粋主義は「はしか」と同じ子供の病気で、科学の進歩には何の役にも立ちません(Nationalism is an infantile disease. It is the measles of mankind)。
  3. 自分の限界に気がついてはじめて、限界を乗り越えられる事も覚えておいて下さい(Once we accept our limits, we go beyond them)。
  4. そして、権力や力に牽き付けられる人は、決まって低俗な人々だと言う事も忘れずに(Force always attracts men of low morality)。

来年2015年は、私が地球を去ってから60年目になります。その間、世界は大きく変り私の価値観も通じなくなった可能性は大ですが、天国に移住して久しくなる現在でも、私の考えは変りません。ご参考になれば至上の慶びです。

アルベルト・アインシュタイン

注(1) アインシュタイン博士に礼状を出そうと思いましたが、天国の住所もメールアドレス、携帯番号もなく諦めました。
注(2) この記事が創作であるのは勿論ですが、チャーチル、エジソン、ネルソン・ロックフェラー、ホーキンス博士、アインシュタイン博士など、障害に悩んだこれ等の偉人が、人生の一時期、伝統的な価値観から疎外された体験を伝記や名語録を参照にして書いたものです。

   
2014年7月31日
北村 隆司