日本自動車業界に関するいくつかの「光明」 --- 岡本 裕明

アゴラ

最近の記事から自動車関連で気になる話題が二件ありました。自動車産業は日本の根幹をなす業種でもありその動きにはやはり注目せざるを得ないと思います。

まず、1題目ですが、上半期の自動車販売台数です。トヨタ509万台、VW497万台、GM492万台。この激しいトップ争い、今のところ、トヨタが3年連続でトップでありますが、多分、1年以内にVWに抜かれることになるとみています。理由はVWは中国での積極投資、および更なる買収計画がある一方でトヨタは2016年まで工場の新設をしないことになっています。よって、現状の形成のままならばVWがトップに立つ公算は高いということになります。


唯一のトヨタ安泰のシナリオはスズキ自動車にキーがあります。同社の株式の2割を持つVWとの「離婚」訴訟の結論が今年中にも出るのではないかとされています。どちらが有利か、あるいは白黒はっきりした決着となるのか、このあたりは全くの予断を許しません。鈴木修社長の年齢も考えればどちらに結論が出たとしてもそこが氏の一つの区切りになる気がしています。悪い方に出ればVWとしては喉から手が出るほど欲しかったインド市場に圧倒的な強さを示すことができます。ではVWが負けたらどうなるか、ですが、トヨタがホワイトナイトとなるのではないか、という見方が出てきています。ダイハツも抱えるトヨタですのでそれが独禁法上、大丈夫なのか、という懸念はありますが、万が一、それが実現できればトヨタの世界一の地位は確保できるでしょう。

ただ、私はトヨタがどこまでトップの座に固執しているのか、アグレッシブさよりも質ということのようですからトヨタ社内の空気とそれを囲む日本のサポーターたちの温度差がどういう形になるかむしろそちらの方が気になってしまいます。

2題目は軽自動車ベースの電気自動車に日産と三菱が協業で開発する点であります。個人的にこれは受けるとみています。

両社とも電気自動車の先駆者としての経験値が高い点、また、電気自動車普及に並々ならぬ努力を重ね、日本でも急速充電所が拡充し地図などでもそれが分かりやすく指し示されるなど各種「インフラ」と情報が整備しつつあります。その中で電気自動車の普及を拒む最大のハードルは都市部であります。理由は駐車場で充電ができないため、戸建の人しかその恩恵を受けにくいのです。

ご存じの通り、都市部の車所有者はマンションの駐車場、街中の有料駐車場に停めるケースが過半を占めています。そしてマンションは管理組合が積極的に充電器を置いたり充電させてくれるような「配慮」をするところはまずありません。同様に空地の有料駐車場にそのような施設を作る様な「立派な地主」はまずいないのが日本であります。

ところが軽自動車の販売の主体は地方。そして、その使い道は農作業、近くのスーパー、病院などに出掛けるなど基本的に近距離主体であります。これぞ電気自動車の走行距離の短さの補完関係にあると言えるのです。勿論、農家ならば軒先に車を停めるスペースはあり自宅での充電は可能なはずです。

電気自動車も売り方のターゲットをうまく変えることでその普及はある時、爆発的に進むと思います。日本で販売される売上トップ10の7割ぐらいが軽自動車である点を考えればその市場のすそ野の広さ、およびガソリン高によるフォローの風で両社が作り出す2016年からの軽自動車には高い期待ができるのではないでしょうか?

2020年のオリンピックまでに日本がどれだけ近未来で新しい社会を世界に発信できるか、これは実に重要です。トヨタの進める水素燃料の自動車も時間はかかると思いますが、5年ぐらいの試行錯誤を経てフィットする市場を見つけ、フライさせるとすればオリンピックには間に合います。レクサスも欧州勢に相当差をつけられているものの足元では新型のイメージが非常に精悍なスタイルとなり、売れ行きが再び上昇気流に乗ってきています。

日本の自動車各社は実に特徴ある生き方で80年代に「先々3、4社に淘汰される」と言われていたのに一社も脱落することなく、しかも更なる強さを見せています。台数では追わない、という戦略もありだとすれば数年前言われた「二番ではダメ」から「NO1でなくてもいい」に変わりつつあるのかもしれません。

いずれにせよ、最も大事なのは「個性」です。それが維持できれば日本の自動車業界は今後もたくましい成長をし続けるでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。