日本ではなぜ商品ラインナップにグラデーションがないのか --- 岡本 裕明

アゴラ

以前、日本にはニッチマーケット(隙間の市場)がないと複数の記事を読んだことがあります。それぐらい日本にはモノが揃っていて新規参入者は難しいという意味なのでしょう。

最近、日本の事業の関係で冷蔵庫を探しています。条件はツードアのそこそこの大型。が、案外これが見つからないのです。家電量販店に20台も30台も並ぶ冷蔵庫。それはほとんどが4ドア以上の「ドアだらけ冷蔵庫」であります。一般家庭向けに確かによく考えられており、引き出しひとつで仕分けできるという如何にも日本的なこの冷蔵庫は「ガラパゴス仕様」であります。では、なぜ、私がツードアの冷蔵庫を探しているかといえば冷蔵庫の容積に対してモノを沢山入れるのならツードアがベストであるからです。ドアがたくさんつくことで場所を取られ、結局、少しずつしかモノが入りません。あとはデザイン。あんな不均等なドアのデザインは世界水準からしたら頂けません。


私がカナダで使っているサブゼロ(Sub-Zero)の冷蔵庫は冷却のコンプレッサーと蒸発器が冷蔵と冷凍別々になっています。それは多くの主婦が頭を抱える冷蔵庫の匂いが冷凍庫に移ることはありませんし、冷蔵庫の保存も2割ほど伸びるとされています。ドアはもちろん、ツードアであります。日本の冷蔵庫の冷凍室なら小さすぎてアメリカのコストコあたりで冷凍鶏肉を4.5キロ単位(10LB)で買ったとしてもまず収まらないでしょう(胸肉で100グラム50円ぐらいですからどうしてもまとめて買って冷凍しがちです。あるいは今年、カナダの鮭は大豊漁で紅鮭一本1000円足らず。で一本購入して切り身にして冷凍庫に入れる生活ですから当然、冷凍庫のキャパシティは大きくなくてはいけません)。

日本の方からは「主婦が毎日買い物に行って新鮮なものを少量ずつ求めるのが日本のやり方」とおっしゃる方も多いでしょう。では、例えば埼玉県入間市のコストコ。週末の国道16号線はコストコの巨大な駐車場に入る車の列が1キロにも及び、幹線道路の一車線は完全に潰され、路線バスは追い越し車線で乗客の乗降をしているほどであり、日本人が「まとめ買い」に目覚めつつある事実も見逃せないでしょう。

日本の市場はあるヒットに対してすべてのメーカーがそれを追いかける癖があり、いつの間にか「あの商品」がなくなっていたということがよく起きるのです。冷蔵庫の例はその好例かもしれません。

家具も実に選択肢が少ないエリアであります。ネットで買える安物かとてつもなく高い欧州家具のピンかキリしかないのです。例えばカナダ、バンクーバー。家具屋の努力とはここにあり、と思わせてるのが家具の大きさとデザインの変化であります。一般に北米戸建て住宅向け家具はサイズがフルサイズ、それに対してコンドミニアムライフが普通になってきた当地の生活に於いて戸建て仕様の家具は大きすぎて入りません。また、デザインは以前のカントリー調や重々しいデザインからコンテンポラリーと称する明るく軽いデザインの住宅が主流で家具も当然それに合わせなくてはいけません。

それに合わせて10年ぐらい前からコンテンポラリーなコンドミニアム向けの家具を積極的に扱う家具店が出始め、今やそれらの家具屋には週末となれば人だかりができるほどなのです。価格も合皮ながらソファあたりで10万円も出せば立派なものがゲットできます。そのほとんどの家具は中国や東南アジア製なのですが、なぜか日本ではお目にかかれません。多分、家具屋さんが市場開拓を進めていないのだろうと思います。

日本のマーケティングは安いか高いかの二極化した市場にフォローするというスタイルが定着してきています。しかし、結果として安物からレベルアップとなる「ステップアップ」ができない市場となっている可能性はあるのです。

一方で家具屋で「合皮なんかより本革を使った商品の方が長持ちします」と言われたとき「僕はソファ一つに20年付き合うより7、8年で新たなデザインのものに変える方が楽しい」と返したところ、店員は返事に窮してしまいました。日本の売り方は基本的によいもの、最高のものを(高く)売る、という姿勢が強いのですが、私は100点満点の商品ではなくて90点、80点でも買い手側のニーズを満たしてくれればそれでよいと思っています。

コンビニであの時のあの商品が欲しいと思っても半年もすれば見つからないことが多かったりするのは結局固定ファンを作りにくくし、次々と打ち出す新製品の嵐に消費者が踊らされてマインドコントロールされているともいえませんか? そんなとき、外から買い物に来た私にとって「あれ、見つからない」というニッチはあるものです。多分ですが、訪日外国人が1000万人を超えた今、同じように呟いている外国人客も多い気がします。

需要を高めるための案外見落としていた小さな穴かもしれませんね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。