価値の毀損と単なる価格の下落

森本 紀行

sleep well at night(夜よく眠る)という表現がある。これは、朝、現金から投資を開始し、夕刻に帰宅するときは、全て売却して現金に戻すことをいう。夜間は、現金になっているので、海外の市場で何が起きようが全く心配することなく、よく眠れる、という意味だ。銀行や証券会社などの自己勘定取引部門や、商品の運用会社などでは、現実に行われていることである。


このsleep well at night、投資の本質または投資の損失とは何かを考える際に有益である。このやり方だと、確かに、投資という行為は継続的に行われていても、それは、一日で清算される投資の連続として行われるので、どの期間で切ろうが、その期間の損失は、明らかに現金としての明確で疑義のない損失であるわけだ。

同じ流儀で、年の始め、日本年度でいえば、4月1日に、現金から運用を開始し、翌年初くらいから現金化を始めて、3月31には完全に現金に戻す、そのような投資を想像してほしい。1年というのが短いなら、現金で始めて現金で終わるまでの期間をホライズン(投資計画期間)と呼び、そのホライズンを適当に定めればいい。ホライズンは、1年ではないかもしれないが、漠然たる長期でもあり得ない。3年くらいが妥当か。

ところで、現金化することは、損益の明確な確定という意味で、筋が通るような気もするが、問題もある。もしも投資を継続するなら、現金化して、もう一度、買い戻すのは、無駄であろう。そこで、常識的には、投資対象ごとにホライズンを定めて投資したならば、それぞれ、ホライズンの終期に売却することを前提にするのだが、改めて、その売却価格においても充分に投資価値があるならば、どうせ買い戻すことになるので、保有を継続する、そのような管理になるのであろう。

ここでの要点は、「売却価格においても充分に投資価値があるならば、保有を継続する」ということだ。逆にいえば、価値がないならば、売却する。もっと常識的には、保有価値がなくなった時点で、ホライズンの途中と雖も、売却すべきだ、ということである。そこで、損失がでるならば、それは、明確な現金の損失として、確定すべきだ。価値の下落は、間違いなく、損失なのだから。

このとき、価値と価格の峻別は、決定的に重要である。価値の毀損は、確定した損失である。しかし、単なる価格の下落による評価損失は、損失ではない。現在では、この二つの異なる損失の混同が甚だしい。困ったことである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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