日韓関係を混乱させた主犯は植村記者ではない

2014年08月12日 15:02

検証記事の検証を続けよう。植村記者の記事は確かにひどい誤報だったが、単純な事実誤認で、訂正記事ひとつですむ程度の話だった。問題を混乱させた最大の原因は、その後22年も誤報を認めないで、問題をすり替えて逃げ回った朝日新聞の幹部にある。「強制連行 自由を奪われた強制性あった」という検証記事は、こう認めている。

日本の植民地下で、人々が大日本帝国の「臣民」とされた朝鮮や台湾では、軍による強制連行を直接示す公的文書は見つかっていない。


これがすべてである。吉田清治などのいう強制連行が嘘であることは、1992年に西岡力氏などの専門家が朝日に対して指摘しており、彼らも社内で検証したものと思われる。その結果、金学順は人身売買だったことが判明し、朝日の論調は少しずつ後退した。検証記事はこう書く。

河野談話の発表を受け、朝日新聞は翌日の朝刊1面で「慰安婦『強制』認め謝罪 『総じて意に反した』」の見出しで記事を報じた。読売、毎日、産経の各紙は、河野談話は「強制連行」を認めたと報じたが、朝日新聞は「強制連行」を使わなかった

つまり1993年の河野談話の段階で、彼らは強制連行が嘘であることを知っていたのだ。しかしこの後も朝日は、曖昧な「強制性」を根拠にして政府を糾弾し続けた。1997年3月31日の特集では「従軍慰安婦 消せない事実」という大見出しでキャンペーンを張ったが、ここでは「強制連行」は消えている。


ところが朝日は「政府や軍の深い関与 明白」と問題をすり替えて、キャンペーンを張り始めた。これは1992年の加藤談話で政府が認めた事実で争点にはなりえないのだが、それを知らない海外メディアがこのころから合流した。国連のクマラスワミ報告性奴隷を糾弾し、強制連行ではなく「女性の人権」が争点になり、世界に騒ぎが広がった。

だが欧米メディアが騒ぎ始めた2000年代に、朝日新聞はそれに追随していない。2007年に米議会が「慰安婦システムは政府によって強制された軍用売春であり、強姦、妊娠中絶の強要、性的虐待で死に至らしめるなど、残虐さと規模において20世紀最大の人身売買である」という慰安婦非難婦決議を出したときも、朝日は大きく報じなかった。それが嘘であることを知っていたからだ。

その後も朝日は「強制連行があったかどうかは枝葉の問題だ」とごまかし、この検証記事でも引き合いに出しているインドネシアの強姦事件などを持ち出した(これは強制連行とは無関係)。それを批判する人々には「女性の人権を踏みにじるのか」とか「戦争の反省がない」などと反論すれば乗り切れる、と踏んだのだろう。

しかし彼らを窮地に陥れたのは、韓国政府だった。朝日の予想に反して韓国政府はますます激しく強制連行を認めるよう日本政府に要求し、日韓関係全体に延焼し始めた。このとき朝日が嘘を認め、「韓国の要求は誤解だ」と書けば、両国に和解の余地はあったと思われるが、朝日は自社の誤報に口をぬぐって「日本政府は強制を認めて謝罪せよ」と主張した。

これは朝日が「福島原発事故で多数の死者が出る」と期待して多くの記者を動員した「プロメテウスの罠」が、健康被害が出ないことがわかってからも「問題は放射能だけではない」とか「原子力村が情報を隠蔽している」と問題をすり替えて被災者の不安をあおっているのとよく似ている。彼らにとっては、社としてここまで派手にキャンペーンを張った以上、何もなかったと認めるわけにはいかないのだ。

しかし朝日の主張の根幹となっていた強制連行は崩れた。日韓の紛争をあおった責任は、事実誤認が判明してからもごまかして過去の報道を正当化した朝日新聞の首脳部にある。当時の幹部も国会に喚問し、なぜ訂正に22年もかかったのか追及すべきだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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