朝日新聞という問題

池田 信夫

夏の合宿では、参加者のご希望にこたえて、23日の2時から「朝日新聞という問題」というトークセッションをやることにした。ゲストにはマスコミ関係者も多いので、業界の裏話も聞きたい(まだ席があります)。


個人的には、朝日新聞の記者には優秀で良心的な人が多い。昔の「リベラル」のイメージを受け継いでいるのだろうが、それが時代からずれてきた。最近でいえば、秘密保護法とか集団的自衛権などは、どう考えても社を挙げて反対するような大問題ではないのに、そういう「反国家権力」の論陣を張るのがリベラルだと思い込んでいる。政治部・経済部は常識的だが、社会部と論説委員室に左翼が多い。

あまり知られていないようだが、論説委員というのは窓際族である。NHKでも解説委員は「上がりポスト」で、そのあとは関連会社に転籍する。昔は社説が世の中を動かした時代もあったが、今は専門家の論評がネットで読めるので、たかが新聞記者の意見なんて誰も読まない。論説委員とか編集委員は、週に数百字の原稿を書いて年収1500万円ぐらい取るので、「原稿料は1字500円」といわれている。

原発については、社内でも意見がわかれたようだ。極端な反原発の論陣を張ったのは「できるかできないか考えないで原発ゼロにしよう」と主張した大野博人氏などの論説委員だった。人数では社会部が最多なので、社内世論も彼らに引っ張られる。社会部は他人の不幸で飯を食う仕事なので、悪い話の書きやすい左翼的スタンスを取りがちだ。

しかし朝日の社長は政治部と経済部が独占し、社会部出身は歴史上1人しかいない。よく言われることだが、朝日新聞は左翼が書いて右翼が経営しているのだ。その典型が、6年間にわたって民放連会長として業界に君臨した広瀬道貞氏である。私は2002年のHotwiredで、こういう公開書簡を出したことがある。

広瀬さんは、かつて朝日新聞の政治記者として活躍しておられましたね。あなたが20年前に書かれた『補助金と政権党』という本は、公的な補助金が政治家の私的な集票装置として利用され、民主主義を腐らせてゆく過程を、詳細なデータと冷静な分析によって明らかにし、政治学の研究書でも引用される名著です。

そうした大ジャーナリストが社長になれば、日本の民放のレベルも少しは上がるかと思ったのですが、あなたの今年の「年頭あいさつ」を見ると、どうやら逆のことが起こっているようですね。

のちに「朝まで生テレビ」で、広瀬氏にこの補助金のことを質問したら、実にいやな顔をしたのを覚えている。彼の中では、紙面で語る反権力と、経営で電波利権をあさるロビー活動の葛藤があったのだろう。まだ良心が痛んでいるだけましだ。

公平にみて、慰安婦問題については他の新聞もひどかったが、毎日新聞や東京新聞が何を書いても影響力はない。突出して強硬な論陣を張ってきた朝日が、訂正に踏み出したのは一歩前進だ。これを機に、戦争といえばアジアに懺悔するものという古いステレオタイプを捨て、窓際の調査研究室を活用して歴史の検証をしてはどうだろうか。