氷の水行と「遊びの精神」と善意 --- 長谷川 良

2014年08月25日 10:32

氷水を頭からかぶる著名人の写真を初めて見たとき、「何のための水行か」と思ったが、そのアクションが「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)と呼ばれる難病に対する社会の認識を高めると同時に、寄付を募る活動と知った。そのやり方はチェーン・メール(一種の幸福手紙)だ。指名を受けた人物は氷水をかぶり、他の人物を指名していく。これまで、多くの著名人が氷水の水行を行い、寄付してきたという。

アイス・バケツ・チャレンジと呼ばれる同活動は米国で7月末、ALSに罹った米スポーツ選手のイニシャティブから始まったという。これまでビル・ゲイツやブッシュ前大統領、映画俳優、スポーツ選手が参加して話題を呼んできた。当方が住むオーストリアでもアルペンスキー競技のスーパースター、ヒルシャーさんやサッカー選手アラバさんも行っている。氷の水行をする著名人は今後も急速に拡大する勢いだ。


当方が8月24日、ドイツのスポーツ番組を見ていると、司会者が突然、「うちの娘がALSのためにアイス・バケット・チャレンジをしました」と説明し、水行する娘さんの姿を紹介していた。アイス・バケツ・チャンレンジは単に著名人だけではなく、一般の国民まで巻き込む社会的現象の様相を深めてきたわけだ。独週刊誌シュピーゲル電子版(24日)は「米国で始まったもので、社会ネットワークを通じて雪だるま式に広がっている」と評している。

本来のルールは、最初の人物が氷水をかぶる。24時間以内にその人物から指定された人が同じように水行する。水行しない場合、罰金として100ドルをALS関連機関に寄付するというものだ。ALS基金によれば、過去2週間で約400万ドルの寄付が集まったという。昨年の同期、基金の寄付総額は110万ドルに過ぎなかったから、インターネット上のチャレンジ・キャンペーンが大きな反響を呼び、寄付が集まったわけだ。ネット社会では寄付活動も「遊び精神」とパフォーマンスが不可欠だ。アイス・バケツ・チャレンジはその条件を完全に備えている。

ALSといえば、英理論物理学者スティーヴン・ホーキング氏を思い出す。同氏は車いすの物理学者として世界的に著名な学者だ。例えば、オーストリアでも900人の患者が登録されている。ところで、水行し、寄付することでALSへの国民の一般的認識が深まるだろうか。著名人が同キャンペーンに参加することで寄付が集まり、難病対策が進むことは期待できるが、難病患者への理解が深まるかは分からないといわざるを得ない。

また、目的はいいが、手段がよくない、といった批判も聞く。すなわち、水行する人物を他者が選び、強要するような仕方だ。何らかの善行、寄付も基本的には本人の自主的な関与が大切だ。チェーン・メールのようなやり方はやはり問題だ。著名人の水行には善行だはではなく、一種の職業的パフォーマンスの匂いもする。「寄付が集まり、ALSへの社会の認識が高まる切っ掛けとなるからいいことだ」といった実務主義的な受け取り方もできるが、当方には少し気になる。

いずれにしても、アイス・バケツ・チェレンジは将来、他の難病支援にもつながるかもしれない。多くの人は他者のために何かをしたいと願っているものだ。その精神が一時的なブームで消滅せず、様々な分野で広がることを期待する。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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