日本の運命は電力にあり --- 岡本 裕明

アゴラ

大げさなタイトルをつけましたが、決して脅かしているわけではありません。日本で原発が動かず、原料のLNGなり石油なりが値上がり傾向にある中、電力各社は値上げを継続する可能性があります。その影響を受けるのはすべての日本に住む人から産業界まであまりにも広範囲に及びます。

今日は電力にもう一度スポットを当ててみたいと思います。


ごく平均的な家庭の2011年3月直前の電気代は6300円程度でした。ところが震災後、その代金は値上がり続け、今では7800円台程度まで上がっています。その上げ幅、ざっと24%あります。

日本の貿易収支。悪化の一途を辿る理由は電気を起こすための燃料の輸入急増が主因とされています。

日経ビジネスが独自調査した電気代の今後の推移ですが、北海道電力の場合、2013年の平均料金がkWh当たり16円だったものが将来的には22.3円まで上がるとみています。東電、関電、九州電力も大体21円前後の水準になると計算されています。これがいつの時点の予想を示しているのかは明示されていませんが、5~10年なのでしょうか。

勿論、こんなに上がらない、いや、下がると予想する向きもあります。それは電力供給源が増えることと節電が進むことで電気消費量が減るという論拠です。例えば神戸製鋼所は2017年に老朽化した高炉を休止し、石炭火力発電所を建設します。その能力は140万キロワットで原子力発電所一つ分あるとされています。まさに「鉄は国家なり」が「電力は国家なり」に変貌すると言ってもよいのでしょう。何故、神戸製鋼所が発電業務をするのかといえば「安定的に儲かる」からであります。変な話ですが、電力の値上げで苦しむ一方で電力で大儲けできるともいえるのでしょう。

個人的には電気料金は今後ぶれながらも安定していくとみています。ぶれるというのは当面、燃料は全面的輸入に頼らなくてはならず、その価格は世界価格の動向、足元を見られて高値をつかまされていることからいやおうなしに燃料費が上がるバイアスがかかっています。ところがアメリカやカナダからのシェールの輸入が現実的なところまでやってきています。時期的には先送りになるかもしれませんがロシアからのパイプラインもあり供給元の多様化と価格交渉力が回復すればある程度調達コスト減を期待することできます。

一方、国内においては売電業者を始め太陽光パネルの普及、電機機器、機械が省エネ型に変わってきていること、更には住宅や工場において部屋の温度が上がりにくく下がりにくい素材を壁等に塗る素材の開発で更なる省エネの工夫へと拍車がかかっていることも挙げられましょう。

事実、震災後の夏に大騒ぎした電力不足の傾向は収まっています。8月25日の東電の電力使用量見通しは84%関電で86%になっています。勿論、気象条件等で一概には比較できませんが、下がっている傾向にはあるように見えます。

遅れている原子力発電所の再稼働も今後、適宜、ある程度は進んでくると思われますので高い電力のニッポンの汚名は上下にぶれながらも少しずつ改善されてくるだろうとみています。

但し、産業界を見ると韓国の様に国が産業育成のために格安の電気代を供給しているところ、アメリカの様に自由競争が進んでいるところと比べるとはるかに高く、電力を大量に消費するような電炉、鋳物業界は厳しい判断を迫られることになります。

ところで、50代半ば以上の方なら確実に記憶のある1973年の石油ショック。突然の原油価格大暴騰で日本経済は完全にマヒし、電気代は2倍になりました。しかし、あの時、日本は単に苦しんでいただけではありません。どうやったら乗り切れるか、必死になって考えました。それが産業構造の変化であり、電気や電子、半導体といった分野で今日の日本が出来上がったのであります。一般社会でも銀座からネオンが消えたなどと言われ、深夜放送は中止になり、国民総出で節電に励み、乗り切ったのであります。つまり、日本は異様に打たれ強い国であります。

今回の電力不足は新技術、例えば電気自動車から家の電力を賄う、あるいは東電の最大のライバルであった東京ガスのエネファームをさらに改善し、蓄電技術を発展させるとか、トヨタなどから発売される燃料電池を応用できないかなど目先だけでも様々なアイディアが並んでいます。

また、発電業者も今後増え、新しい技術、新しい発電方法も確立されていくでしょう。

その間に電力会社そのものの改革がもっと進まなくてはいけません。発送電分離は議論が多い所ですが、私は電力の送電も通信インフラのようなものだと思っています。1985年の通信自由化に至るまでの電電公社などの抵抗勢力もあったのですが、結果として自由化が引き起こした改革と通信の革命は言わずもがなであります。電力の発送電分離において電気代が下がったことがないというのが反対派の意見でありますが、下がらないなら下がる努力をするというのが挑戦であります。挑戦しない電力関係者は退出すべきです。

日本は工夫を凝らすことで日本を守ってきました。電力についてもこの先、予断を許しませんが、必ずできるという気持ちを持ち、競争原理をどんどん導入することです。そうすれば私は2020年のオリンピックの際にはあっと驚くほどの電力勢力地図の変化と想定を超えた電力価格が存在していると期待しています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。