政府の経済政策に期待し過ぎる落とし穴 --- 岡本 裕明

アゴラ

10月1日の日経トップ記事。「東京、外資誘致で再生 特区の規制緩和活用、三菱地所など、金融・ビジネス拠点を整備 きょう素案を提示 」とあります。丸の内から品川にかけての11の民間プロジェクトに政府が後押ししてそれらが完成した暁には外国企業を誘致するという事であります。

このストーリー、実はやや違和感を持って読ませていただきました。まず、これは国家戦略特区の基幹事業であります。その事業は三菱地所、三井不動産などいわゆるビックネームのデベロッパーが開発メリットを享受し、完成後、外国企業を誘致しやすくするというものです。国家戦略特区は一部の企業だけのものなのか、という疑問は持たざるを得ません。


アベノミクスは本来日本再生であり、その中で国家戦略特区は規制を緩和することによる貴重なテストケースであります。しかし、一部大企業と政治家が結託した出来レースのような国家戦略特区には疑問符がついてしまいます。

日本の役人に都市開発のセンスがあるか、といえば多分ないと感じています。理由は都市計画そのものが場当たり的で東京をどういう街にしたいかというビジョンがないのです。例えば世界でもっとも住みたい街ベスト3に確実に入り続けるバンクーバー。なぜか、といえばその一つに都市計画のうまさがあるのです。建物と緑地のコントラスト、職住接近、街の概観(スタンレーパークからダウンタウンを見れば高層ビルが絵のような美しさ)を保っているのは高さや建蔽率の調整があります。

日本のデベロッパーは少しでも多くの容積率を確保し、コンクリートの塊をつくることで儲けを生み出します。そのために政治家にすり寄り、緩和策を模索します。そこで美味しい思いをさせてもらえるという事でしょう。

こう書けば大手へのやっかみ、ひがみに聞こえてしまいますが、結局権力ある人々の作る世界に一般人や一般の経営者が入り込む余地はなく、どうあがいても我々末端にメリットがある話ではありません。本来であれば、国家戦略特区で検討されている旅館業法の緩和措置、つまり、外国人が長期宿泊しやすいように1週間以上の滞在であれば賃貸借契約で賄えるといった内容は一般経営者を含む末端までストレートに影響します。こういうプランがたくさん欲しかったと思います。

一般企業は世の中のトレンドと政府が作り出す一定のルールに基づき、知恵を絞りぬき、機を征することしかできません。

今や、街中から中国語があちらこちらから聞こえる東京の繁華街。そして家電量販店に入れば中国語ができるスタッフが中国人顧客相手に対応しています。この店は確かに中国人が多いな、と思っていましたが、なるほど、こういう努力が中国人の中でSNSなどを通じて情報拡散しているのだろうな、と感じました。

確かに私がバンクーバーで「うまい店」はどこか、といえば案外日本人同士の情報網から入ってくるものです。つまり、限られた市場に自分から入り込んでいく勇気と挑戦心をもった者だけが生き抜ける世界があるという事でしょうか?

日本は歴史的に一般大衆と政府の間に溝があった気がします。そこだけ厳格に責任分担が分かれています。そして大衆は政府に文句を言い続けてきました(褒めたことがあった記憶は私にはあまりありません)。しかし、文句を言っても始まらず、その与件の中で経営をどうドライブするか、そこにかかっています。

80年代、日本の車がアメリカで売れすぎ、「失業を輸出する」と揶揄され、輸出量の自主規制という営業努力の道を閉ざした日本の自動車業界が進んだ道は現地化でありました。それは当時、日米政府の予想をはるかに凌駕した結果になったはずです。ですが、自動車業界からすればこの難局をどうやったら乗り越えられるか、知恵を絞ったことでたどり着いた経営方針でした。ここには政府の後押しはなかったはずです。

我々中小企業の経営者はアベノミクスに頼り過ぎていたのかもしれません。初めから期待などせずになにか具体案が提供されたら自分の経営にどう落とし込むか、考え抜き、実行するということがもっとも打算的でありながらも失望させないことなのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。