総合計画を住民の実感ベースで策定しよう --- 西村 健

アゴラ

地方自治体には「総合計画」というものが存在する。多くの住民は見たことがないだろうが、それをもとに地方自治体はまちづくりを進めている。自治体には福祉計画、観光計画、環境基本計画など様々な分野ごとに計画が存在するが、そのなかでも最も上位にくる、いわばまちづくりの戦略である。今年、来年で総合計画が策定される自治体も数多い。


今後まちづくりをどのように進めていくのかを記述しており、最近では、数値目標が設定されるケースも多くなった。自然保護、子育て、社会福祉、市民サービス、教育、土木、商工業、観光、上下水道、ごみ・環境、行革などの分野ごとに、現状と課題、目指す姿、現状の数値と数値目標、役割分担、関連事業などが記載されている。最近では、ワークショップや無作為抽出した市民に対して討論型世論調査など先進的手法で住民と協働で策定する動きが定着化しつつある。中学生の参画、企業ヒアリングなど多様な主体の意見を聞く取り組みも行われている。

しかし、この計画、そもそも行政の目線で作成されており、住民にとってとてもわかりづらい。施策ごとに順序よくまとめられており、従来型の作り方が踏襲されているため、住民から見て、頭に入ってこない。だからこそ、より住民が実感できることをもとに作成していくべきだ。日本創成会議が発表した2040年に「消滅自治体」が発生する未来に向けて、そもそもの設計思想を変える時期ではないだろうか。

住民と市役所にとってどうなりたいのか(目指す姿)がまずあり、その次に、役割分担として市役所と住民はどういった役割を担うのか、そして目指す目標として数値化した数値を設定するという順にする。具体的に言うと、「生活しやすい」「幸福に感じることができる」「気分良く安全に街を出歩くことができる」「自分らしく生きることができる」「困ったときは、周りの人と支えあえる」「学ぶ意欲を持ち、チャレンジできる」など住民の立場での大きな目的を設定し、そのために「何ができるか」「どういった状態が必要か」を企画していく。

さらに、どういった状態が必要で、その状態を保つためにはどういった役割が求められ、その状態をどのレベルまでキープするのか、と展開していく。例えば、住民が「街並み・景観に快適性を感じている」という状態なら、役割は「市役所は都市計画・景観のルールを策定し、法的な規制をする」「市民は景観を守ろうと努力する」「業者は違法建築を立てないと設定し、その目標値として「景観に対して快適だと感じる割合が89%」と設定し、その根拠を考察していく感じになる。

特に、地域社会における住民、団体、市役所の関係・役割分担についてのデザインについても注意が必要である。現状の総合計画には、住民、団体、市役所の役割分担は記載されている。「市民はできる限りごみを出さない」という風に。しかし、役割はどうしても抽象的に記載されがちで、一般住民においては価値観の押しつけになることもある。住民のルールとしてどういったルールが望ましいのか、計画の策定過程のワークショップや議会において議論を重ねて丁寧に話し合うことが望ましい。

また一部の関心のある人だけではなく、幅広く参加してもらうために、特に計画策定に参画できない人のために、facebookやSNSなどのネットの活用が必要であろう。

そして、将来の予測とそれをもとにした議論も重要だ。人口予測をもとに、10年後はどうなるのか? 20年後どうなるのか?どういった変化が起こるのかを考えていく。より最悪のシナリオまで考えた上で今後の方向性を議論しないと、「消滅自治体」から脱却することは難しい。

逆説的であるが、従来型の計画策定のままでは、多くの住民にとっては内容が難しく、理解もできないだろう。だからこそ、住民が実感できることを最優先にしていくことが必要だ。住民が実感できる、理解できることを最優先に計画作りを根本から作り直すことが、住民参加がしやすい地方自治を作り上げる一歩になる。

そのために第一に、デザインやデータビジュアライゼーションなどを活用して「難しいことをわかりやすくする」こと、そして第二に住民が手に取って見たいと思えるような、「まちについて知りたくなる」「楽しくなる」「面白くなる」「できる範囲で参加してみたいと思う」コンテンツ作り、第三に地域で自由に話せる「場」を企画・運営すること、第四に、住民の持った力を引き出していくこと。例えばCode for Japanなど、IT技術を持ち、何か地域に貢献したいという住民も増えている。こうした工夫を求められているのは「今でしょ」。

西村 健
日本公共利益研究所 代表