15年前にMITメディアラボに参加して、強く追いかけたテーマは、「インテリジェント、ユビキタス、ウェアラブル」つまり「かしこくて、なんでも、いつも」といった技術が個人の力を飛躍させる可能性でした。ネットが普及して、社会全体が動き出すスピードよりも、技術・デバイスが個人に直接働きかけるほうが先だろうという感覚もありました。
しかし実は、「インテリジェント、ユビキタス、ウェアラブル」つまり「かしこくて、なんでも、いつも」といった技術は、今になってようやく普及しそうな気配。それはPCやスマホといったデバイスがネットワークでつながる15年間が先に必要だったということでしょう。
で、その気配を示す事例がいくつか立ち上っています。
米フロリダ州で、殺人の容疑者がiPhoneのSiriに「ルームメイトを隠したい」と聞いたところ、「沼地、貯水池、鋳物工場、ゴミ捨て場」との回答があったという記録が裁判所に提出されたそうです。
「「死体をどこに隠したらいい?」とSiriに隠し場所を尋ねた殺人事件が発生」
事実のほどは知りませんが、「かしこい」デジタルに悪者も依存するわけです。30年前にぼくが社会人として最初に手がけた仕事が人工知能の国家プロジェクトだったのですが、実サービスとして頼られるようになったか、と感じています。
(ブログ)「30年たって実現した自動翻訳電話」
MIT Sloanのエリック・ブリニョルフソン著「機械との競争」には、雇用は高所得の創造的な仕事と低賃金の肉体労働に二極化し、翻訳も自動車の運転もコンピュータがカバーするとしています。こうした議論は15年ほど前にもありましたが、「かしこい」デジタルが実は何をもたらすのか、そのデータも揃い、認知されてきたようです。
(ブログ)「機械との競争」
「なんでも」ユビキタスにつながる。M2Mで家電もクルマもロボットもみな交信し始めます。と同時に、3Dプリンターが普及して、モノがコンテンツとして製造・流通するようになります。なんでも、です。
国内でも3Dプリンターで拳銃を製造したとして、武器等製造法と銃刀法の罪に問われた男の公判が開かれました。
「3Dプリント銃所持「違法意識なかった」…被告」
こんなこともです。
「ろくでなし子氏の逮捕 新たなる技術・3Dプリンターが原因か」
これも以前、MITメディアラボのジョー・ジェイコブソンが作っていた世界が現実のものになってきた、ってことなのでしょう。
「号外:Eインクを作ったジョーが10年前に話していたコト」
そして、「いつも」。モバイルは「いつでも」つながる手段でした。ウェアラブルは「いつも」。スイッチをオフしない。常時、です。
米8つの州で、「グーグルグラス」の運転中の使用を規制する法案が提出されました。議会を通過してはいないそうですが、通っても執行は難しいですよね。装着してても「見てませんでした」って言い訳ができるだけじゃなくて、もっと薄く小さくなるし、コンタクト型も登場しそうだから、装着してるかどうかわからなくなる。ソフトだって運転アシスト機能がすぐ開発されて、「つけたほうが安全」という主張もされるでしょう。
「運転中のグーグルグラス規制案は「執行不可能」=米教授」
いつも見つめられていますし。
「まんだらけ」から鉄人28号のブリキ製玩具を盗んだ容疑者に対し、返さなければ顔写真を公開すると警告した、そのやりかたの是非が議論になっています。撮られていること、いつもデジタルで見られているよ、ということが前提なんですよね。
「「まんだらけ」万引き、容疑者逮捕 顔写真公開を警視庁が止める」
マルチデバイス、クラウドネットワーク、ソーシャルサービスのセットによる「スマート」が完成し、インテリジェント、ユビキタス、ウェアラブルによる次のステージに移行します。
それは「Atoms meet Bits」、現実社会の活動がオンラインでも行える運動、その次に来る、「Bits meet Atoms」、デジタルが現実社会に張り出す運動、でもあります。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。