環境大臣の夜中の緊急会見は“禁じ手”

2014年10月28日 07:00

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どうも新田です。プロ野球の世界では、味方が大量リードしているなかで打席に立ったピッチャーがガチンコでヒット狙いに打ちに行くことは不文律として「禁じ手」扱いされているのだと、記者になってから知りました。世の中、対立・対峙する関係のコミュニティにあっても、特にルール違反として明文化されてはいなくても、大人の知恵といいますか。暗黙裡にやらないことになってる物事はあるんですがね。望月環境大臣が本日未明に緊急記者会見を開いて、政治資金の不記載についてあれこれ釈明したわけですが、かえって釈然としない展開になっております。

望月環境相:08年、09年の賀詞交歓会収入を不記載
毎日新聞 2014年10月28日 01時15分(最終更新 10月28日 01時27分)

望月義夫環境相は28日未明、環境省で記者会見し、2008年と09年の後援会の政治資金収支報告書に、新年の「賀詞交歓会」にかかった経費として約305万円と359万円をそれぞれ計上したにも関わらず、収入が記載されていなかったと発表した。望月氏は、賀詞交歓会は実行委員会形式で開いており、後援会に経費を記載したのは誤りだったと説明。「環境省は問題が山積しており、一生懸命頑張りたい」と述べ、辞任する考えはないことを明らかにした。

記者会見を開いたのは、日付が変わってからですから、全国紙は最終版締め切りまで1時間余りしかないわけで、環境省担当の記者の皆様は大変だったと思います。おそらく現場では複数の記者を配置して若手にパソコンで「トリテキ」させる一方で、クラブか本社に待機している先輩記者が現場から入ってくる情報をつなぎ合わせて速報ベースで記事を書き上げてしまるようなチームプレー総動員で、大臣の奇襲攻撃に対処されたのでしょう。

古今東西、不祥事の発表など都合の悪いニュースというのは、いかに最小スペースで報じてもらうかが広報戦術的な眼目でありまして、たしかに朝刊の最終締切間際に駆け込みで記者会見してしまうのは、ひとつのテクニックではあります。読売や朝日、毎日あたりだと最終版の紙面構成はその前の13版段階で大枠が固まってますんで、日付が変わってから時間が経つほどの全面的な差し換えは、印刷・配送の工程も控えてますんでよほどの緊急性がない限りはなるべく回避したい作業です。

逆にいえば不祥事を起こした側からするとダメージは最小限に抑えられる(と思う)わけで、報道機関の裏事情に通じている人間がそこで「悪知恵」を使って未明のドタバタの記者会見を行います。なにも政治の世界だけではなく、プロ野球でもかつて、社会部記者出身である某球団の当時のGM氏が深夜に緊急会見を開いて、外国人選手のドーピング違反を発表したことがありましたね。翌朝のスポーツ紙の記事の扱いは少し抑え目にならざるを得なかった。当時、記者仲間と「うまくかわしやがったな」と、言い合ったものです。

望月大臣の公式サイト
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私は現在、広報側の立場なので、危機管理対応のオプションとしては、そういう手法が適当とあればクライアントに勧める可能性はありますが、「禁じ手」というのは先々を考えて熟慮した上でないと、後々で逆効果になるリスクは否めませんね。望月環境大臣の件についていえば、朝日の記事を読むと、後半の方で「朝日新聞の取材に対し」という独自取材の記述がありますので、朝日の先行取材か、すでに週刊誌からの当たりがあってコトが露見する寸前だったのかもしれません。望月事務所としてはヤバイな、と思っていたところへ、日本国内初のエボラ患者発生の可能性浮上という“ラッキー”なニュースが飛び込んできた。秘書が「今、先手を打って締切間際に発表すればエボラのニュースに紛れてしまえる」等と邪な期待を抱いたのだとしたら、ちょっと早計だったんじゃないですかね。エボラの一次対応は厚労省の所管だとしても、環境省も環境行政の視点から感染症対策は仕事にしているんですから、国民感情としては「国民の安全より保身かよ」となる。

それから「締切」という発想も、オールドメディア時代の遺物じゃないですかね。記者たちがトリテキやらされている背景の一つは、記者メモのためだけじゃなく、電子版の速報対応のためでもあるわけですよ。3Kの電子版なんか記者会見とか裁判傍聴のQ&A速報大好きじゃないですか。そこにツイッターやフェイスブックで拡散する。すでに政治リテラシーの高いクラスタの間では、今回の記者会見について批判的な意見が取り交わされておりまして、朝刊が届く頃までには、世論形成の基盤が整っているわけですよ。Facebookページで領民常民からの怒声コメントが投稿されるのも時間の問題のようです。

とりあえず、現場記者を心理的に敵に回してしまった代償は小さくない。記者は元々「攻めに強くて守りに弱い」人種だけに、弱点を突かれると却って敵愾心を燃やす性質があります。GM氏も球団を追われた際には、現場記者から同情の声は上がりませんでした。望月大臣に対しても「もっと不祥事を掘り起こせ」という展開は想定の範囲内です。

とりあえず、TPOをわきまえない夜中の緊急記者会見と、相撲のマゲをつかむのは明らかな禁じ手だということで、他山の石にしたいと思います。ではでは。

(訂正、10:50)エボラの件は「日本人」→「日本国内」

新田 哲史
Q branch
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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