ハブ空港と航空会社の空港ラウンジ

前田 陽次郎

12月9日に、香港に拠点を置くキャセイパシフィック航空が、羽田空港国際線ターミナルに、外国の航空会社としては初めてとなる自社ラウンジを開設した。

それに関連して、ハブ空港の機能について、もう一度考えてみたい。

以前私は「ハブ空港の機能で重要なのは制限区域内の施設の充実度」と題してアゴラに投稿させて頂いた。その続編として、今回の記事を書きたいと思う。

私のように地方都市に住んでいると、特に海外旅行の際には、地元の空港から直行便で目的地に向かうことは、ほぼ不可能だ。長崎空港発の国際線はソウルと上海しかない。それ以外の場所へ行くには、陸路で福岡空港まで向かうか、羽田・成田、関西、ソウル、上海などの「ハブ空港」を利用する。どこを選ぶかは、時間の都合、就航している航空会社の都合、そして、「ハブ空港」の機能、などが選択理由になる。

今回キャセイパシフィック航空が羽田空港に、自国外では最も豪華なラウンジを設置した理由は、正直な所、私にはよくわからない。なにせ羽田空港を出発するキャセイパシフィック航空の便は、一日2便しかないのだ。たかだか2便のために、これだけのラウンジを作ったのだろうか。

ハブ空港に豪華なラウンジがあることは、利用者としてはその空港を使う選択肢の1つになる。その点でいえば、日本各地から香港に向かう人に対して、羽田を経由してキャセイを使って下さい、ということなのかもしれない。

国際的に見て東京がハブ空港としての立地において優位になるのは、東・東南アジアから北米へ向かう経路だ。しかし香港に拠点を置くキャセイパシフィックの立場から見ると、香港から羽田までキャセイに乗って、そこからJALなどに乗り換えて北米へ行くお客さんを増やそうとすることはないだろう。香港から直行便で北米へ向かう路線を使ってもらう方がいいに決まっている。羽田に豪華ラウンジを設置する理由にはならない。

もう1つ考えられるのは、キャセイパシフィックはJALと同じ航空アライアンスに属しているので、JALの上級会員にキャセイパシフィックを使ってもらおう、ということなのかもしれない。

JALの上級会員であれば、キャセイパシフィックを利用しない場合でも、JALに乗るのであればキャセイのラウンジを使える。そうした利用者を増やして、キャセイのイメージを良くして、さらにJALから施設利用料を貰おう、という考え方もあり得る。

それはさておき、私は、どうせならキャセイパシフィックは、関西空港に羽田空港位豪華なラウンジを作るべきだと思っている。

実はキャセイは関西空港発の香港行きが1日5~6便ある。その割には、ラウンジが貧弱なのだ。

そもそも何故こんなに便数が多いのか。理由としては、日系の航空会社が東京中心に路線を展開しているため、関西発の香港行きが少ないことが挙げられる。LCCは増えているが、フルサービスキャリアをみれば、ANAは1日1便、JALは就航なしなのである。

それだけではない。実は関西発の東南アジア方面の需要を、キャセイが香港ハブを利用することで、かなり奪っているのである。

日本の航空会社が東京中心の路線展開しかしていないため、関西から直行便のない東南アジア各地に向かうには、一度東京に出て、東京発の直行便で目的地に向かうか、関西から香港経由で向かうかという選択が中心になる。この時に、羽田・成田と香港のハブ空港としての機能が比較されるのである。

羽田成田の乗継が不便なのは言うまでもなく、羽田の国内線と国際線の乗継もターミナル移動があるため意外と不便である。それに比べ香港だとターミナルが1つで乗換が便利な上に、豪華なラウンジがいくつもあり、乗換時間が比較的長くてもそんなに苦痛ではない。

私も東南アジア方面に向かう場合は、福岡空港からキャセイパシフィックを利用して香港乗継、というのが第一候補に挙がる。それはやはり、香港空港の乗継の便利さとラウンジの充実度が大きい。また私はJALの上級会員であるため、キャセイパシフィックのラウンジは利用できる。シンガポールに行く場合でも、ステイタスを持たないシンガポール航空の直行便で福岡から香港へ行くより、香港で乗り継いだ方が途中でいい休憩にもなるので、第一候補になる。

日本が国際競争力を高めるために、羽田のハブ機能強化を挙げるのはいいが、羽田ばかりに注力していると、実は香港など他国の空港に、地方からの旅客を取られるという危険性もあるのだ。敵はソウルだけではない。それを防ぐためにも、もう少し関西にも目を向けるべきである。

私は、ハブ空港としての魅力は羽田より関空に感じる。羽田は意外と国内・国際の乗継が不便だし、九州からアジア方面へ向かうには、羽田まで行くのは遠回りになるからだ。それに乗継の時に食事をすることは多いが、そこは羽田・成田より関空の方に魅力を感じる。関空だとたこ焼きもお好み焼きも551のぶたまんも食べられる。そこはやはり、東京ではなく大阪の魅力だ。

話はぐるぐる回っているが、最後に結論(?)を。もし今後関空のラウンジの充実度が上がり、関空と長崎を結ぶ路線が強化されれば、今は福岡から香港経由が第一候補なのが、関空乗換が第一候補になるだろう。国外に逃げているハブ空港の利用客を、国内に取り戻すことができるのだ。

前田陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師