なぜ金正恩氏は“滑稽"なのか --- 長谷川 良

2014年12月25日 08:56

北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺計画を描いた米映画「ザ・インタビュー」の上演を、製作会社ソニーの米子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)が中止すると決定したことに対し、米国内では、テロの脅しに屈し、「言論の自由」「表現の自由」を放棄するものだと強い批判の声が上がった。

国内の予想外の激しい反発に直面したソニー側は12月23日、「25日から計画通り上演する」と上演中止を撤回したばかりだ。ソニーによると、米独立系映画館200カ所以上で上演される予定という。


当方は話題の映画を観ていないので映画評論はできない。映画の話を聞いて、「上演されれば、北側が激怒するだろうな」と考えていたが、その激怒の度合いは予想以上に激しいものだった。

ソニー側への北側のサイバー攻撃に対し、オバマ大統領は米国民の自由を脅かす行為とみなし、厳しく批判。その直後、北のインターネットの接続が途絶え、北全土が長時間オフラインとなったという。ワシントンは公式には認めていないが、北のサイバー攻撃に対する米側の報復、と受け取られている、といった具合だ。

それにしても、金正恩氏が父親・金正日総書記から権力を継承して以来、欧米メディアは北関連記事の発信数を増やしている。彼らは北の指導者金正恩氏が滑稽な存在であることを発見したのだ。

欧米メディアは金総書記時代、北関連記事には余り関心を払わなかった。金総書記が秘密を愛し、公の活動を極力回避してきたから、欧米メディアにとって面白くなかった。それが北に若い指導者が登場して以来、急変したのだ。なぜならば、北の指導者が滑稽だからだ。読者に笑いを提供するテーマが年々少なくなる中で、北指導者の言動は数少ない笑いを誘うテーマと受け取られたのだ。

当方が住んでいるオーストリアの高級紙プレッセも先日、金正恩氏関連記事をとうとう1面トップで写真付で報道した。記事の内容はトップ・テーマには相応しくなかったが、正恩氏が登場すれば読者に、「彼は今度何をしたのか」といった好奇心を呼び起こす効果が期待できる。そのうえ、「こんな政治家は世界では金正恩氏しかいないだろう」と、思わず笑いがこぼれてしまうこと請け合いだったからだ。

ソニーが金正恩氏暗殺計画をテーマとした映画を制作したのは滑稽なテーマだからだ。北朝鮮の政情を訴えるというより、金正恩氏の言動に焦点を合わせることで、コメディとなるからだ。映画がクリスマス時期に上演される予定だったことをみてもソニー側の意図は明らかだ。ソニーは映画を観る者に笑いを提供できると確信していたはずだ。

最後に、「なぜ金正恩氏は滑稽か」を少し説明したい。北の3代世襲国家自体が欧米諸国にとって時代遅れのアナクロニズムの典型だ。21世紀に生きる現代人は先ず、「地球上にまだそのような国家が存在するのか」と驚く、同時に、笑いがこぼれてくるのだ。

その笑いを一層効果的にしているのは、金正恩氏ら北指導者が真剣にその滑稽な役割を演じているからだ。彼らは決してコメディを演じていると考えていない。真剣だ。だから一層、滑稽なのだ。

時間があれば、当方のコラム「金王朝の『称賛と美化』の世界」(2010年10月14日)を再読して頂きたい。彼らが如何に滑稽かを理解していただけるだろう。

スイス留学した金正恩氏が内心、「わが国は時代遅れな後進国だ」と考えながら、その国の指導者の役割を演じているならば、これほど滑稽な印象を与えなかっただろう。金正恩氏を含む全ての指導者たちが真剣だから、滑稽なのだ。

オバマ大統領はソニーへのサイバー攻撃に対し、北への報復を示唆した。オバマ大統領は北の脅威にようやく真剣となってきたが、正恩氏の真剣さには及ばないだろう。

金正恩氏の真剣さの中に、朝鮮半島ばかりか世界への潜在的な危険が潜んでいるのだ。繰り返すが、世界は、滑稽なことを真剣に取り組む北指導者と対峙していることを忘れてはならない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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