知財本部、新ラウンド始まる --- 中村 伊知哉

アゴラ

政府・知財本部、コンテンツ会議の新ラウンドが始まりました。引き続き、吉本興業大崎社長、角川歴彦さん川上量生さん、久夛良木健さん、竹宮恵子さん、レコ協斉藤会長、松竹迫本社長、ニッポン放送重村会長、写真著作権協会瀬尾さんらとともに議論をして参ります。


まずはアーカイブの件から。
文科省「アーカイブ推進のためのデータベースを構築している。メディア芸術デジタル・アーカイブ事業で基礎データを作成していく。既にマンガは単行本25万冊・雑誌12万冊、アニメ9000タイトル、ゲーム35000件の基礎データを作成した。」
経産省「テレビ映画、アニメキャラ等海外向けポータルJAPACONはレコ協斉藤さんが会長、瀬尾さんが主査。これとの連携を強化する。」
力こぶが込められています。
国立国会図書館のアーカイブ化は、平成21年度の補正予算127億円と著作権法改正のセットで進みました。日本をアーカイブ大国にするには、こうしたパンチの効いた取組をもう5ラウンドぐらいやらなきゃいけません。

問題は、民間が自主的に進めつつも手の薄い分野。
久夛良木さん「CESAでゲーム・アーカイブの議論が始まった。データ・資料も散逸しつつある中、ゲーム・アーカイブへの取組が重要。」
久夛良木さんの活動に頭がさがります。ぼくも汗をかきたい。政府も手伝って!
重村さん「放送コンテンツも消滅する。どの程度残っているかの実態も不明。政府内でのリーダーシップが必要。」
関西テレビ「どてらい男捜索プロジェクト」なんて、涙ぐましいですもんね。
NHK木田さん「NHKアーカイブ85万本はあと4年でデジタル化するが、公開できる著作権処理は10年で1%。あと1000年かかる。」
やばいです。
瀬尾さん「アーカイブは個々には進んでいるが、全体を統括するセクターが不明。これはネットワーク・システム。統合策が重要。」 
ということです。同時に瀬尾さんは「著作権、法改正は一つのツールに過ぎず、契約やシステムなどを含む総合的な政策を考えるべき。」とおっしゃる。強く同意します。

ビッグデータについて。
知財本部「10月、政府は1万件以上のデータセットを自由利用できるよう対応。国に著作権があるものは商用利用を含め二次利用を可能とした。」
知財本部「パーソナルデータ利用促進と個人情報・プライバシー保護の両立策を図る個人情報保護法などの法改正を準備中。」
がんばってくれています。一方、教育情報化は文科省がデジタル教科書を正規化するための課題を整理中といいます。そんな整理はもうできていると思いますが、これについては話し始めるとイラつくので、別途。

次にクールジャパン=海外対策。
経産省「海賊版対策として、中国政府との対話・協力を推進中。マンガ・アニメ・ゲームに関し、削除、正規版への誘導、普及啓発の3本柱で進めている。」
仕事しています。かように各省の海外展開策の説明を受けたのですが、外務省はドラえもん、進撃の巨人、コスプレによる外交事例、経産省はちびまる子ちゃんとガンダム。日本政府、今やそんなかんじです。

施策の手段としては、総務省:BEAJ、aRma。外務省:国際交流基金。経産省:JETRO、J-LOP、コ・フェスタ、クールジャパン機構。かなり充実してきました。メニューは揃いました。見える成果を示したいところです。

なお、韓流ドラマの海外競争力に関し、その輸出先の多くは日本であり、その資金を元にアジア展開しているという事実を共有すべきとの指摘がありました。こうした戦略論を平場でたたかわせることが日本は苦手。
すると、ローカライズ策として、海外の小さい会社を買収して多言語翻訳会社を作るというアイディアが挙げられました。こういう項目を掘り下げてみたいと考えます。こういうのは、夜、密室ですべきかもしれません。

ところで文化庁が日本映画の振興に8.5億円/年をかけている報告もあったのですが、ぼくは座長なので黙ってますけど、個人的には今なぜ映画振興なのか、腑に落ちないところがあります。映画振興に8.5億円かけるより、コミケ、ニコ超会議、ゲームアーカイブに突っ込むほうが効果的ではと思ったりするから。問題は、そっち側の人たちはそんな支援いらん、とおっしゃることですが。
つまり、政策予算をつぎ込むとしても、どの分野に、何の目的で投じるのか。コンテンツ制作もあれば、流通インフラもあれば、人材育成もある。その整理とコンセンサスはない、と言いますか、ひとり財務省が差配しているわけです。
こうした中、「コンテンツ策の成果をデータ分析しろ」との正論が多数挙げられています。そうなのです。しかも、施策にいくら費やしたからこうなったという分析が難しい分野なんですよね。産業政策だけでなく、文化政策であり、外部効果が大きいので。ここは政府に頼るだけでなく、それこそ学界の知見を求めたいところです。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。