駐韓米大使襲撃事件が示す「教訓」 --- 長谷川 良

2015年03月06日 13:02

マーク・リッパート駐韓米大使は5日、招かれた朝食会の会場、世宗文化会館で54歳の韓国人男性によって刃物で頬や手首を切り付けられ、病院に運ばれた。同事件を報じる韓国メディアによると、男は5年前にも駐韓日本大使を襲撃した人物だ。男が朝食会の会場に自由に入り込めたことに対し、警備上の不備を指摘する声が出ている。


男は2日から開始された「米韓軍事演習の即中止」を要求し、「米帝」と米国を批判していたという。その言動は北朝鮮の要求と重なる面もあることから、韓国当局も男の背景などを慎重に捜査中という。

今回の事件に、朴槿恵大統領をはじめ韓国当局は大きなショックを受けている。米国の対韓外交にも影響を及ぼすのではないかという懸念の声も聞かれるという。

当方はこの事件を契機に韓国政府が教訓を汲み取ることを期待する。すなわち、従来の憎悪外交から決別することだ。例えば、現在の対日関係にみられるように、日本への憎悪、恨みといった歴史感情が重要な両国の関係発展を阻止している。憎悪は破壊的なエネルギーを持ち、伝染性がある。如何なる憎悪もそれが拡大、増幅されればいつか暴発する。今回の男の発言やその行動を聞くと、米国への憎悪ばかりか、日本への憎悪も強いことが推測できる。

問題は、その憎悪という感情を助長する外交政策を取ってきた韓国政府側の責任だ。国民が抱く憎悪を解消する努力ではなく、それを煽る外交政策を実施してきたからだ。国民が特定の民族、国に対して抱く憎悪、恨みには歴史的な背景があるが、国民を主導する政府がその憎悪感情を建設的な手段で解決するのではなく、政権維持の手段に利用したり、煽ってきたのが韓国政府のこれまでの政策ではなかったか。

男は「米国を懲らしめたい」と思って、今回の襲撃を計画していたという。これは男一人だけの問題ではない。憎悪外交によって生まれた破壊的なエネルギーが韓国社会に溢れているのではないかと危惧する。憎悪外交は韓国国民の反日感情を高める一方、日本では嫌韓感情を拡大させているのだ。

国民の憎悪感情を善導するのが政治家、宗教家たちの責任だろう。韓国政府が今回の出来事を通じて憎悪外交、告げ口外交から決別し、国民のエネルギーを建設的な未来に向けさせるべきだ。繰り返すが、恨み、憎悪からは決して建設的な成果は生まれてこないのだ。

ちなみに、当方は昨年、ヨルダンのアンマンで、3人の娘さんをイスラエル軍の空爆で亡くしたパレスチナ人医者イゼルディン・アブエライシュ氏(現トロント大学准教授)と会見したが、同氏は「憎悪はがん細胞だ。そのまま放置しておくと繁殖し、死をもたらす」と語り、イスラエルとの和平を主張している。

朝鮮日報は5日、同紙創刊95周年特集として実施した世論調査で、韓国国民の長所として、勤勉性、忍耐心、人情、団結力、礼儀を挙げる回答が多かったと報じた。韓国民族は優秀で勤勉な民族だ。その民族が憎悪、恨みにいつまでも捉われているならば、その民族としての長所を十分に発揮できなくなるのではないか、と懸念する。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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