焦点は「ポスト・マクドナルド」を誰が制するかに

大西 宏

マクドナルドの月次セールス情報が発表されましたが、それに関心を持つ人もすっかりすく少なくなってきているのではないでしょうか。売上高が12月で対前年21.3%減、1月38.6%減、2月28.9%減の数字は、普通の企業ならとっくに倒産の黄色信号が激しく点滅するレベルで、はたして再建が可能なのかも不透明な状態が続いています。


マクドナルドの月次セールスレポートのコメントは「1月の一連の報道から、客数、売上共に少しずつ回復の兆しが見られておりますが、依然として当社の事業環境は予断を許さない状況が続いています」となっていますが、「1月の一連の報道」とは、相次いだ異物混入問題です。

マクドナルドは苦しんでいます。鶏肉偽装問題が起こり、駄目押しのように、店舗でのオペレーションの質が落ちてきたことが原因とも思われる相次いだ異物混入問題が広がり、それが致命的な深い傷となったわけですが、それよりも以前からマクドナルド失速は始まっていたわけで、マクドナルドのメニューやビジネスそのものが競争力を失ってしまっているところが厳しいのです。

週刊現代が、消費者の飽きが、企業を一気に奈落の底へ突き落とし、経営者の一瞬の驕りと油断、変化への怠慢があっという間に会社を死へと誘い込む現代の落とし穴を「ボリュームゾーン不況」と名付け、その典型例としてマクドナルドやイオンがその落とし穴にはまってしまったとしています。記事のなかでマクドナルド社員の言葉が紹介されていますが、マクドナルドが陥った状況がリアルに語られています。

「これまでうちは、チーズバーガーなどの定番の主力商品を大量に販売することで成長してきた。ところが最近は、そのボリュームゾーンの嗜好が飽きられているのです。

前社長の原田泳幸さんは『お客に常に驚きを与えろ』と声を大にして、『メガマック』など次々と奇抜な新商品を出すことでお客をどうにかつなぎとめていた。しかし、現在のカサノバ社長が時代のスピード感についていけなくなると、一気に不振に落ち込んだ。そうなると定番商品からも一気に客が引いていった。

消費者の飽きが早くなったのと同時に、一度離れたお客を取り戻すのがこれまでの何倍も難しくなっている。だから、一度始まった客離れはどんどん加速し、悪循環が止まらないのです」

マクドナルド、イオンがハマった落とし穴 「ボリュームゾーン不況」とは何か?  いま、この国の経済が大きく変わろうとしている | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]

このトレンドは日本だけで起こっているわけではありません。先進国でのマクドナルドのビジネスそのものが揺らぎ始めています。マクドナルドの売上げの約4割を占める米国で、売上が昨年は、前年比4.1%減と2年連続で減少し、全世界の既存店売上高も9カ月連続で減少しはじめています。

そんなマクドナルドの不振に、もの申す株主のファンドから「マクドナルドが幅広い分野で改革が必要なことを浮き彫りにしている。そうした改革は、空気が淀み視野が狭くなったメンバーを一新することを含めた新経営陣の誕生にまで、踏み込まなければならない」と経営陣刷新を要求される始末ですから、もう日本を構っている余裕もない状態なのでしょう。
米マクドナルド2月世界既存店売上高、米競争激化で予想以上の減少  |  |ニューズウィーク

しかし、世界のマクドナルドのなかでも日本がもっともはやく、しかももっとも深い不振に落ち込んでしまった背景には、コンビニという強いライバルが存在すること、またうどんや、牛丼などのチェーンを含め、チェーン間の競争が激しいといっった厳しい競争環境に加え、日本の消費者が食の安全やトレンドに極めて敏感だということもあるのでしょう。

こうなってくると、マクドナルドの穴をどこが埋めていくのか、つまりポスト・マクドナルドをどこが制するのかに俄然関心が移っていきます。もしコンビニが北海道のコンビニ・チェーン「セイコーマート」のように店内調理を広げることができれば、コンビニが制するのかもしれません。アリックスパートナーズの調査によれば、日本で消費者が外食したいと考える最も人気のある業態はコンビニエンスストアなのですから。しかし、コンビニだけでは埋め尽くせないニーズがきっとあるはずで、そんなニーズをどこがとらえ、台頭してくるのかです。

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図は、2015年 日本の外食・食品サービス業界見通し:アリックスパートナーズ(PDF)より

米国でも変化が起こっているようです。新しい企業が伸びてきています。今年、ニューヨーク証券取引所に上場した「シェイク・シャック」が、まだ国内外で約60店舗しか展開していませんが注目株で、日本にも来年上陸してくるそうです。ホームページを見ると、少なくともマクドナルドよりはチャーミングな印象です。
Food & Drink | Shake Shack

「マック離れ」でシェイク・シャック脚光 スタバの再来?ゴールドマンも期待 (1/4ページ) – SankeiBiz(サンケイビズ)

ハンバーガーに限らなければ、メキシコ料理チェーンの「チポトレ・メキシカン・グリル」もおよそ5,000億円の売上を誇るチェーンで伸び盛りの元気印です。
チポトレ・メキシカン・グリルの売上高推移
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米国では、ファミリーレストランとファストフードの中間を狙った『ファストカジュアル』が伸びてきているようですが、いずれにしても、マクドナルドの業態そのものを進化させなければ、生き残りが難しくなってきているのだと思います。
“本格×低価格”レストラン「新ファストカジュアル」ついにブレイクか? 日経トレンディネット

マクドナルドの再建にしても、経営陣が「ポスト・マクドナルド」を自ら描けるのかどうかにかかっているのではないでしょうか。とくに日本ではなにが、コンビニと異なる価値として提供できるのかを発見し、実現することが重要な鍵になってくるのだと思います。