人は「同じであること」に感動する --- 長谷川 良

アゴラ

韓国「中央日報」電子版によると、朴槿恵大統領の支持率が今月第1週の時点で37%と上昇してきたという。今年1月末には30%を割るジリ貧状況が続いてきた支持率がなぜここにきて上昇してきたのか。換言すれば、朴大統領は何をしたのか。


中央日報は大統領の海外訪問(中東4カ国訪問)と米大使襲撃事件の2つを挙げて解明しようとしている。大統領は中東4カ国を訪問し、韓国企業の中東進出を支援した。経済危機を恐れる韓国国民は大統領の外交が経済にいい影響を与えると好意的に受け取っているのだろう。例えば、カタール訪問では2022年開催のワールド・カップ(W杯)大会のインフラ整備事業への韓国企業の参加を要請している。

興味深い点は、マーク・リッパート駐韓米大使襲撃事件が大統領の支持率アップに繋がったという分析だ。事件は単独犯の可能性が濃厚であり、容疑者が親北活動家であったという点で国民は北朝鮮の脅威を改めて感じたのだろう。韓国メディアは“リッパート効果”と呼んでいる。

当方はもう一つの理由を考えている。朴大統領は9日、4カ国中東訪問帰国後、直ちに治療中の米大使を見舞い、「自分も襲撃された過去を思い出しました。大使がいる病院(新村のセブランス病院)は私も事件直後、治療を受けた病院です」と述べ、米大使に一種の運命共同体と示唆しているのだ。それに対し、米大使は大統領の話を聞き、“深い縁”を感じると述べたという。

中央日報によると、「朴大統領はハンナラ党代表時代の2006年、5・31地方選挙を控えて新村での遊説途中に、カッター刃物によるテロに遭遇して顔右側を60余針縫うということがあった」という。

40代の若い米大使は朴大統領の人生を想起し、大統領に強い連帯感を感じたはずだ。テロ襲撃事件、同じ病院で治療……、この「同じ体験」に対し、素朴な連帯感、感動が米大使の心に中に湧き上がってきたとしても不思議ではない。人はそれぞれ違うが、それ故に、「同じである」ことを発見した時の感動は格別ではないか。当方はこれを「運命共同体効果」と呼びたい。

米大使だけではないだろう。韓国国民も朴大統領に久しく感じなかった連帯感を感じたのではないか。大統領の支持率が上がった背景に海外訪問、リッパート効果だけではなく、1人の人間、大統領への連帯感を感じたはずだ。それは「私も大統領も同じ人間だ」という点、苦しい時を体験し、生きてきた人間への無条件の連帯感が蘇ってきたのではないか。

当方はこのコラム欄で2度、岡田克也氏のことを書いた。海外居住一ジャーナリストに過ぎない当方が日本の野党「民主党」代表の岡田氏に連帯感を感じるといえば、少々大げさだが、同氏が当方と同じように網膜剥離を患い、視力の減退という十字架を背負った人間という点で、当方は政治信条、政治発言とは関係なく、同氏に無条件の連帯感を感じるからだ。

同じように、韓国国民が突然、朴大統領の政治姿勢、政策に感動し、共鳴した結果、支持率が上がったのではないだろう。国民の中で朴大統領への連帯感を感じる国民が増えたからではないか。そして、その連帯感は政党、政策に対してではなく、人間としての素朴な感情のはずだ。

私たちは「違い」が尊ばれ、「違い」への批判が評価される時代に生きているが、私たちは「同じ」であるという事実を再発見し、「同じ」ことへの連帯感を高めていくならば、多くの紛争も少しは和らいでいくのではないか。

例えば、日韓両国関係も両民族の違いに拘るのではなく、「同じ」である点を見つけ出し、それを大切にしていくならば、歴史問題も自然に溶けていくのではないか。

少し付け足すならば、「同じ」といっても、いい点だけではなく、悪い面で同じだ、ということがある。後者の「同じ」の例として慰安婦問題がある。民族、国家、時代を超えて人々を陥れる「愛の問題」に対し、私たちは「同じ」だ。だから、私たちには連帯感だけではなく、寛容と和解が生まれてくるのではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。