1枚ではなくなった大企業の名刺

岡本 裕明

1997年に金融ビックバンで解禁された持ち株会社。ちなみにその第一号はダイエーで上場会社では大和證券ですが、今では○○ホールディングスという社名は上場、非上場問わずいくらでも見つけることができます。この持ち株会社の特徴は様々な事業を独立形態の形でぶら下げる点であり、各事業会社の評価、方針、判断をしやすいメリットがあります。

私はこの持ち株会社制度はある意味、日本型経営に素晴らしくマッチしたものだと思っています。


日本の官庁は縦割り行政といわれます。区役所に行っても部署ごとの情報のやり取りはスムーズではなく、一か所で手続きをすれば連動的に全部終わるというシステムは存在しません。引っ越しなどすれば書類をもって役所の中を右へ左へ長い順番待ちをじっと耐え忍ばなくてはいけません。

この縦割りに横ぐしを指して改善する動きはあります。吉野家が関連事業で培ったノウハウと仕入れルートでチョイ飲み屋を展開したのが良い例かと思います。しかしながら、一般的には「おらが大将」「サル山の天下争い」で他の派閥には口を出させないのが日本のしきたりであります。

だからこそ、ちょっと高いサル山である事業会社をボスザルにやらせるという持ち株会社の思想は日本にピッタリなのであります。

私も一部上場会社に20年も勤めていた上で申し上げますが、大企業の社員さんは概して敷居が高く横柄であります。名刺の社名がそうさせるのでしょう。名刺がなければただの人なのですが人の性なのでしょうね。そういう私も20代後半の時は秘書という肩書で社内では横柄そのものでありました。きっと好かれていなかったと思います。

そのスノービッシュ(snobbish)な大企業の社員のスタイルは今後、崩れていくかもしれません。大企業は持ち株会社を通じて成長事業により傾注し、不振会社は売却、廃業、清算などスクラップアンドビルトをしやすくなると考えられます。よって大企業の社員といえども所属部署によっては苦渋のサラリーマン人生になるかもしれません。

また、日経ビジネスでは「大手は子に従え、主役はベンチャー、パナソニックが脇役に」という過激な特集が組まれています。なぜ、大手が子に従う時代がやってきたかといえば大手の弱点である社員の歯車化によりごく一部の部門を深く掘り下げた業務経験しかさせなかったことに背景があるのではないでしょうか?

2000年代初頭、東大中退の堀江貴文氏の奮闘は優秀な学生のベンチャー化を間違いなく促進しました。東大発のベンチャーは196社と二位の京大84社に大差をつけています。DeNAはその成功例であると言ってよいでしょう。(南場さんは津田塾→ハーバードですが。)この10数年、新興企業にも様々な試練が合った中で今IPOする若い企業は再び増え続けています。それは大手の脇の甘さのするっと抜けていったニッチビジネスと言ってよいでしょう。

ソニー、シャープ、三菱重工などは社内事業の再配分を進めています。それは大企業の名刺はもはや一つではないという事です。昔は子会社への出向を嫌がりました。今は子会社でどれだけ稼ぐか、その能力を問われる時代に変化したのです。だからこそ日経ビジネスで奇抜な特集が組まれるのは変態できない大企業のサラリーマンに代わり新たなビジネスのエキスを新興企業が注入しているともいえるでしょう。

個人的はこの動きは大賛成です。日本が財閥解体を経て、一億総中流を達成しえた意味は誰でもスターになれるチャンスがある国だという事でもあります。長年の高い教育水準は世界でも類を見ないのです。ならば、少子化の時代、世界を股にかけ飛躍するには一人ひとりの才能を引き延ばしチャレンジできる体制を作り上げることが日本企業にとって重要です。

大企業はこれから事業部門の「切った張った」を繰り返すことになるでしょう。その時、多くのサラリーマンは気がつくはずです。大手は安定していると思ったのに、と。その横でベンチャーを立ち上げて汗しながら頑張っている君は小さいながらも成長のループで喜びを噛みしめているかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ外から見る日本 見られる日本人 5月5日付より