オウンゴールでゲームセット --- 山城 良雄

2015年07月05日 09:45

囲碁将棋の世界に「自害に受けは無し」という言葉がある。「自分から負けるような極端なミスをすると処置のしようがなくなる」という意味やな。こんな表現を思い出したのは、なでしこ対イングランド戦のかなしい幕切れのせいでも、エーゲ海のMrビーン、チプロスはんが主張する顰蹙財政の話をしたいからでもない。新聞業界の事件が原因や。

ネットでは、かなりの炎上やのに、既存のマスメディアにはほとんど登場しない読売社長逆ギレ事件。

6月10日、内閣府主催の特定商取引法専門調査会に、新聞業界を代表して出席した読売新聞東京本社の山口寿一社長の発言中に、「複数の委員らが声を上げて笑い座長もそれを静止しなかったと」、永原伸社長室長が消費者庁などに、わざわざ抗議文を送ったという一件や。

そもそも、何で調査会に東京読売の山口社長がいたかと言えば、訪問販売を規制する法律を作るにあたって、業者側の意見を政府が聞くというのが理由や。

加害者側代表には「今後も社会に迷惑かけたら検挙するけど、文句ないよね」と聞かれているわけや。新聞の公益性ではなく公害性が会議のテーマや。

さて、この会議の模様は、内閣府のHPに動画でUPされている(ただし、長いで)。

大のオトコが激怒する嘲笑とは、こんな感じか……。

社長「社会の公器である新聞の……」
委員A「がはは、コーキだとさ。コーキコーキってお前は出来の悪いノコギリか」
委員B「確かに、最近めっきり切れ味が落ち取るがな」
委員C「わはは、Bさんに座布団一枚!!!」
社長「お静かに」
委員A「新聞の勧誘こそ、ひとつ、お静かにぃ願いたてまつりまするぅ」
委員BCD……「ぎゃはははは」

というような、展開を期待しながら、何はともあれ、ひとつ拝見することにした。ところが、なにしろ4時間弱の長編や。なかなか嘲笑の場面が見つからん。

仕方ないので、「雨降れば名無し」さんのブログ記事を元に、やっとこさ、嘲笑の場所をつきとめた。以下、ブログ記事から問題の部分のやりとりを引用する(左の数字は、画像ファイルでの録画開始からのだいたいの時間)。

>>>>
02:43:30 新聞社「断られたけれどやはりとって頂くということも現実には多々あるんですね」
02:43:50 委員「プーwクスクス」
02:44:36 委員「今の話はあれですか? 断ってもその意思を尊重していただけないわけですか? あなたちょっとそういうふうに聞こえるんですが。」
02:44:50 新聞社「断られ方も様々あってですね。半年……」
02:44:51 委員「プーwクスクス」
02:44:52 新聞社「笑わないでくださいね。真面目に話してるんですからね」
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「雨降れば名無し」さんは「プーwクスクス」と表現しているが、ワシには辛うじて「ククク」ぐらいに聞こえる。わしのヘッドホンが安物やからアカンのかな。読売はん、次の景品に、高音質のやつ頼むで。

まあ、少なくとも発言を物理的に遮るような笑い声やヤジが無かったのは確かや。おまけに、社長の方も笑いながら話しているように聞こえる(2:44:45ぐらいの「ええとそうではなくて」など)。

そやから、あの場で、少々笑い声を上げたせいで文句を言われたら、誰でもビックリする。社長の逆ギレと言われても仕方ないやろ。 

ちなみに、政財界人あたりの記者会見で、新聞記者がハッキリと嘲笑の声を上げること、結構、あるように思うが、読売はん、今後は一切禁止するつもりなんやろか。

さて、発言内容の方も検討してみよう。この議論の論点は、「訪問販売禁止のステッカーを玄関に貼ってたりして明確に拒否している家に、それでも強引に飛び込みセールスをすることを、今後違法にしてよいか」という問題や。常識論から言えば、明示的に拒否している相手にあえて接触することに正当性を求めるのは、どうがんばっても無理や。

会議が特にざわついたのは、山口社長が、断った相手に再営業をして契約できた事例を、説明しているときや。ワシの解釈では、この「契約成功の事例で、拒否する相手に勧誘し続けることを正当化できる」と思っている社長のズれた感覚に対して、嘲笑がおこっているように聞こえる。

念のために言うが、契約の成否とその倫理性とは関係ない。最終的に売れれば許されるのなら、霊感商法やら原野商法やら、全部OKになる。よりにもよって消費者庁の会議で、こんな稚拙な議論をすれば、委員さんたちが唖然とするのが仕方ない話や。

どうも、山口社長の(というか新聞人の)感覚では、「日本人なら新聞は読んで当然。訪問営業で無知蒙昧な庶民を啓蒙してやった」という意識があるのかも知れん。ただし、それでも、他紙の購読者に営業をかけることまでは、正当化できんはずや。

一生懸命、自分でも無理と分かっている議論を展開しているときに笑われたら、キれたくもなるやろうが、それをやってしまうと嘲笑が冷笑に変わる。笑いの対象が「発言の内容」から「発言者の人格」へと移行し、その後、たとえ正論を口にしても相手にされなくなる。

社長も人間やから、やらかしてしまうこともあるやろ。ワシかて経験ある(ただし高校時代や)。放っておけば、恐らく埋もれてしまった話や。ところが、ここで読売新聞に決定的なオウンゴールが出る。組織として内閣府に抗議をして、それを自分とこの紙面にデカデカと載せてしまいよった。

もう、「社長個人が、つい熱くなって……」では済まん。読売自体が、「押し売り営業の正当化を堂々として笑われている」という自覚がないのを、自ら公表してしまったわけや。官僚たちには「こいつらと話し合っても無意味」と思われてしまったやろ。

気の毒なのは、太陽光やら自動車やらの、他の訪問営業団体や。頼りになるディフェンスと思っていた新聞人のオウンゴールで、自分たちの立場まで悪くなり、より厳しい規制を、かけられかねんようになった。まあ、自業自得とも言えんこともないがな。

この話には、さらに頭痛のする後日談がある。ある新聞業界の情報紙が、この件を一面でとりあげ、読売擁護の論陣を張りよった。読売の赤恥を業界全体で共有しようという提案や。見ている方まで情けなくなるがな。

記事には、「動画を見てくれ」と出ているが、見たら味方になってくれると思っているところが、ホンマに恐ろしい。

メディア企業にとって、一般社会とセンスが大きくずれている、というのは致命的なことや。読者だけでなく、広告主だって考えるやろ。ほとぼりがさめるのを待つよりないが(これ以上騒いで失点を重ねる度胸は、さすがにないようや)、新聞というもの自体が、それまでに失うものは決して小さくないと思う。

今日はこれぐらいにしといたるわ。

また久々にやる気が出てきた 山城 良雄

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