40代からのお金の教科書 --- 岩瀬 大輔

2015年07月15日 15:11

このところFacebook を開くと、毎日のように同年代の友人たちが40歳になっていく。小学時代のマドンナも、中学時代の部活の仲間も。高校時代の天敵も、大学時代の盟友も。それはつまり、早生まれの私が39歳になり、40歳になる年を迎えたということなのだ。

不思議なもので、40歳になる日が近づくとともに、世界の見え方が変わってきた気がする。先輩諸氏には「39歳?まだまだ若いなぁ」と言われるが、自分が22歳の頃から考えれば40歳というのはかなりのオトナである。当時おぼろげにイメージしていたような立派な大人になれているのだろうか。まったく自信がない。

どう変わったかと一言でいうと、キャリアなり人生なりを、終わりから逆算して物事を考えるようになったのだ。人生80年と考えれば折り返し地点だし、22歳から65歳まで働くとしても中間地点くらいだろうから、それも自然なのだろう。あと何年、元気で働けるのだろうか。何年、人生を満喫できるのだろうか。50歳になった先輩経営者が懸命にマラソンやらトライアスロンに打ち込んでいる姿を見ると、どこかで老いという自然の摂理と対抗しようとする生命力のエネルギーのようなものを感じる。

数年前から70代、80代の大経営者の方々を中心に5、6名でやっている勉強会に呼ばれるようになったことも影響しているかもしれない。逆に、自分よりもずっと年下の起業家や学生とも交流を保つようにしていることも、同世代の仲間といるときには気がつかない、自らの老いを意識させられる。今日もアフリカで教育事業を起こした凄い21歳がオフィスを訪ねてきたが、自分が彼の年齢のときにどんな人間だったか、それからどれだけの月日が流れたかを考えると感慨深いし、どこか切なかったりもする。

40代に入るというのはどういうことなのか。それはきっと20代や30代の頃におぼろげに抱いていた無邪気で暢気な希望、明るい未来像を一旦解き放ち、厳しい現実と向き合うことなのではないか。自分が会社でどれだけ出世できるのか。子どもは思いどおりに育ってくれるのか。あるいは、親が老いていくことを確かに感じるのもこの頃からだろう。

40代からのお金の教科書 (ちくま新書)
栗本 大介
筑摩書房
2015-06-08



「40代からのお金の教科書」(ちくま新書、栗本大介著)は、そういった大人の階段をまた一段上がっていく過程で直面しなければならない「不都合な真実」
と正面から向き合うことを余儀なくさせられる一冊だ。文章は平易で有益だが、読み進めるのがどこかつらい。老後の資産は足りるのか。親の介護はどうなるのだろうか。それは、40代を迎える我々誰もが向きあいはじめなければならない内容ばかりだからだ。

お金に関する著作は世の中にあまたあるが、本書の特徴をあげるとすると以下の3つだろうか。

1. 内容が「家計管理」や「資産形成」中心の狭義のファイナンシャルプラニングにとどまらず、介護、相続、各種公的制度と40代の読者が人生で直面する課題を幅広くカバーしていること
2. 著者の1,400名を超える家計診断の経験を元に、極めて実務的な内容になっていること
3. 終始、絶妙なバランス感覚をもって書かれていること

一点目については、40代を迎える我々は親の世代が徐々に60代から70代に入っていき、介護や相続が少しずつ現実の問題となる、いわばターニングポイントの年齢でもある。
必要が生じてからバタバタと慌てるのではなく、心と頭と懐の準備をしておきたい。口座がある銀行や証券会社などの情報をまとめておく「相続財産一覧表」は
準備しておいた方がよい。戸籍も生前にとって置いたほうがいいらしい。しかし、この手の内容を自分の親に切り出すのは実に容易ではないものだ。海の日の連休に実家に帰る予定なので、このブログをきっかけに話しをしてみようか。

二点目については、「事実は小説よりも奇なり」とはよくいったもので、現実にお金にからむありとあらゆるベストプラクティスやトラブル事例を見てきた経験をもとに書かれた内容は参考になる。「優しかった兄弟姉妹が、若くして亡くなった夫の銀行口座変更名義手続きから怖い存在に変わる」といった話は、なかなか聞けないが、現実ではよくあるのだろう。また、「親の介護が必
要になったらまずは地域包括支援センターに相談しよう」といったアドバイスもありがたい。

三点目については、たとえば次のような記述がある。

 
ちなみに、ネット生保の保険料は安いケースが多いようですが、商品によっては、対面で保険営業職員を通じて加入する商品の保険料の方が安いケースもあり、
この点でもしっかりとした比較は大切になります。また『ネット生保ではわからないことがあっても質問できない』というのも必ずしも正しくなく、メールや電
話を使って直接質問できる窓口を設けているケースもあるので、上手く活用することが大切です。さらに言えば、『保険料が安ければいい』わけでもないので
す。
   <中略>
 どのパターンにもメリットとデメリットがありますが、すべてに共通して言えるのは、常にあなたが主導権を握ることが大切ということです。
 保険営業職員には、「こちらの都合を考えないで無理な勧誘をしてくる」というイメージが根強くあるようで、積極的に関わることを望まない人も多いかもしれません。
 人の相性というのはさまざまですから、一概には言えないものの、『こちらの話しをしっかり聴いてくれる人』に相談することが大切でしょう。(p.110-111)

対面セールスもネットもいいところもある、でも結局大切なのは主体的にお金の問題と向き合うことだ、というのはまさに本質ではないだろうか。こういったバランス感覚と本質を見る目が、本書には散りばめられている。

最後に、著者を個人的に知るひとりの読者としてあえて物足りなかった点をあげるとするならば、お金に関する考え方や制度などについて正確に綴られているものの、読み手には興味深い著者の人生観や世界観を垣間見る記述がやや少なく、これらをもっと打ち出して欲しかったことだろうか。例えば著者は3人のお子さんの親であるが(しかも学生時代にいわゆるデキ婚をされている)、お子さんに毎年の給与を開示し、皆で家族会議をするという一風変わったマネー教育を実践していると語っていた。こういった話をもっと詳しく書いてくれれば、読み物のとしての温もりが増したのではないか。

なお、本書の最終部になって、著者の価値観と人間性がちらっと垣間見られる。

 お金と幸せについて考えながら、多くの家庭と関わってきたなかで、上手に家計を運営されている家庭に共通するポイントを5つだけご紹介いたします。
 ① 家庭(あるいは仲間との関係)が円満であること
 ② 仕事に勤勉であること
 ③ 生活のなかでの良い習慣を増やすこと
 ④ できない理由ではなく、できる方法を考えること
 ⑤ 問題を先送りしないこと

そして、もうひとつ大切なことは、感謝を忘れないことではないでしょうか(p.250-251)

もっとも大切なことは、感謝を忘れないこと。40代になられた方はもちろん、アラフォーでカウントダウンがはじまった同世代の皆さんにお勧めしたい一冊です。献本御礼。


編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2015年7月14日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。


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