国民1人辺りの借金○○円という違和感

2015年07月17日 05:15

昨日は、安保法案関連のニュースが多かったですが、ある政治家がこのように言っていました。「日本の借金は約1,000兆円あります。国民1人あたり800万円の借金です。やるべきことが他にあります」と。

国債や借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」の残高は2015年3月末時点で1,053兆3,572億円(財務省HP)ですが、なぜ推計人口数に置き換える必要があるのかと違和感を感じます。

■「国の財政=お父さん」の違和感
日経新聞(2015/1/14)にもこのような記載がありました。「一般家庭に例えると収入595万円、新たな借金369万円

「俺の年収(税収)は45万円増えて、545万円になるぞ」。円安で会社の業績が上がり、給料が増えるお父さんは自慢げに話した。「私だって時給が上がるからパート収入(副収入)が3万円増えて50万円になるわ」とお母さんも応える。

2人の収入の合計は595万円だが、支出(歳出総額)は963万円で収入の約1.6倍にのぼる。最近体調が悪いおじいちゃんの介護や医療費(社会保障費)に315万円かかる。地方にあるお母さんの実家はアベノミクスの効果が波及していないようで、仕送り(地方自治体への財政支援)が155万円必要だ。

最近は地震が多いし、自宅の耐震工事(公共事業費)に60万円をかけるつもりだ。物騒な世の中なので、最新の警備システム(防衛費)も50万円で導入する。これまでの借金の返済費用(国債費)は235万円かかる。2人の収入だけではまかないきれないため、お父さんは銀行から新たに369万円を借りる(新規国債発行)。これまでの借金の合計はすでに1億円を超えている。

「収入が増えてるからそのうち借金は減るだろう」とのんきなお父さん。「収入が少しくらい増えても、支出を減らさないと借金は減らないわ」というお母さんの指摘を受けて、夏までに借金返済の計画(財政再建計画)を立てることにした。

まず、日本を借り主とした場合、貸し手は誰なのかという論点があります。通常、家庭で借金をする場合、銀行、カードローン、消費者金融等から借りるのが一般的でしょう。この例であれば、夫婦2人の収入の合計は595万円です。そしてローンの残高は既に1億389万円あり、更に借金(新規国債)を重ねようとしているとされています。

次に国債です。日本国債は現在95%が国内で低金利で消化されています。残高1億389万円のうち実質的な借金は5%ですから、1億389万円×5%=5,194,500円(約500万円)が本来の借金の額になります。収入595万円の家庭が、約500万円の借金を抱えていても大きな話には思えません。

もっと分かり易い表現をするならば「妻はヘソクリを貯めていました。ムダ使いを抑えた結果、パートの収入と合わせて9,869万円(1億389万円×95%)の貯蓄ができました。1億389万円と思っていた借金のうち、9,869万円は、妻が立て替えていました。夫の実際の借金は約500万円です」。

「いやいや9,869万円なんて貯まらない」と言われる方がいるかも知れません。そう思われる方は、ネットで貯蓄のことを調べれば、「年収300万円で1億円貯める方法」「1億円貯める習慣・マネー学」など、それ専門の書籍や教材、セミナーが目白押しであることが分かると思います。一般的な節約本では、月収の20~30%を貯金に回すというものが多いですが、この比率を高めれば高めるほど貯蓄は増えてきます。1億円の貯蓄は生活レベルを下げることで充分に手が届く数字だと説かれているのです。

さらに言及するなら、国はお父さんのようにお金を生み出しません。税金や社会保険費、年金などを徴収しているだけです。ところが、このようなケースの比喩では、必ず稼ぐ対象として置き換えられます。国の財政をお父さんに置き換えることで、余計に本質を分かりにくくさせています。

■実は労働意欲の低下が問題
そうは言いつつも国債を発行し続けるにも限界がありますから、借金を減らす算段を考えなくてはいけません。会社業績を好転させる方法は3つしかありません。1つ目は売上高を増やすこと、2つ目はコストを下げること、3つ目は限界利益率の改善です。限界利益率は「(固定費+利益)÷売上高」ですから、限界利益率が利益幅を表していることが分かると思います。

ところが、日本の名目GDPは1997年をピークにほぼ横ばいに推移し今後も大幅に増やすことは困難でしょう。国民医療費は増える一方ですから国の負担が減ることはありません。また、主要国の一人当たり名目GDPもOECD加盟国の中では順位が下がっています(平成25年19位)。

6月の日銀短観を見ても、先行きの視点では、企業の規模(大企業、中堅企業、中小企業)及び製造業、非製造業のいずれもが、現状維持か悲観的な見方をしています。内閣府が7月に発表した景気ウオッチャー調査も、6月の現状判断DIは、前月比2.3ポイント低下の51.0とあります。家計動向関連DIは小売関連が低下したことなどから低下しています。企業動向関連DIは製造業が上昇したことから上昇。雇用関連DIは低下しています。

結局のところ景気回復の実感はなかなか広がりません。少子化による労働力低下を主張される方もいますが、少子化と労働力低下との相関性はありません。むしろ若年層の労働意欲の低下が問題です。

尾藤克之
経営コンサルタント
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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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