新国立競技場問題がこれほど話題になるとは思いもしませんでした。まずこの背景の要因を考えてみましょう。
一つは世論が一定の不満を抱えていた中でそのはけ口が新国立になってしまったこと、次いでマスコミが本件を必要以上に取り上げ、煽ったことがありましょう。三番目に舛添・下村対決がかっこうの大衆トピックスとなったことでしょうか?この話題はまだまだ続くはずで昨日の安藤節も吉本興業より面白いと思いましたし、安倍首相がどんな指示を出すのか大変興味深くなっています。
まず、世論が何に対して不満を抱えていたか、ですが、これはとりもなおさず安保関連法案であります。安倍首相の立ち位置は経済中心から政治、主義主張に変わりつつあります。それと共に支持率の低下や圧倒的な強さにやや陰りが出ていることは事実でしょう。
経済は良くしたい、というのがほぼすべての国民の一致した考えですから有言実行し、効果がみられる限りにおいて支持が受けられやすくなります。また、経済は数字で判断できますからその効果は客観的であるともいえます。
一方、安保関連法案となると一筋縄ではなく、反対派を説得し、落としどころが重要となりますが、先日の委員会の様子を見ていても久々に国会議員が熱いな、と感じさせるほど紛糾していました。これは国民レベルでも同じぐらい様々な意見があるわけで私はそのあたりの不満が鬱積していたことは背景にあるかと思います。
マスコミも安保の切り口より新国立問題は分かりやすく、多くの人が(お金の使い過ぎは)「もったいない」と反応することを予期していましたから賛同を取りやすいというマスコミのビジネス感覚は当然あったはずです。
そう考えると舛添知事が下村文部大臣にクレームをつけたあの一件の価値が出てきます。
安藤忠雄氏のインタビューは突っ込みどころ満載でしたが、所詮、氏は設計の大家でも「意匠の安藤」ですから芸術家的立ち位置の方です。この方にお金の話をすることがそもそも間違っていますし、その予算でできると聞いただけで誰も現実的な検証を行わなかったわけです。
有識者委員会というのも我の強い人たちでかつ、ある程度政治的な方向性を持ったものです。せいぜい森元首相が新国立は自分の息のかかるラグビーでデビューさせると個人的にに決めてかかっていたようなものでしょう。
今後の方向性ですが、安倍首相が森元首相を説得し、国民の耳触りがよい代案を持ってくるしかないでしょう。その際にネックは二つ。一つは新案の場合の費用と工期、二つ目はザハ案との関係でしょうか?
私ならザハ案を一旦保留し、新案を進め、その中でザハ案のごく一部だけを新案に潜り込ませ、ザハの顔を立てるというやり方をします。ザハ ハディト氏の関係を維持するとか、日本の設計業界が国際社会で信任を失うというのなら安藤氏が体を張って防ぐしかありません。顔を立てるために国民に千数百億余計に出せというのは本末転倒です。
建物については新案の設計を待つしかありませんが、なぜ日本の競技場だけがロンドンや北京と比してずば抜けて高いか、直感的には仕上げなどがオーバースペックなのだろうと思います。正直申し上げまして競技場はどこでも仕上げや座席の品質はかなり落としていることが多いのですが、それでも誰も文句は言いません。壁のペンキも塗っておらず、コンクリの打ちっぱなしでも全然問題ありません。それはそこに快適さを求めていないからであります。レストランやホテルではなくて試合やイベントを見に来るという実質主義に立てばお金を使うのは将来、アップグレードや設計変更しやすい工夫であって外ずらの見栄えではないはずです。
スペックを下げ、簡易にできるところを増やすことで工期を短くする努力はゼネコンとしなくてはいけません。頭ごなしに下げろ、短くしろではなく論理的に何をどうするか、きちんと討論してもらいたいものです。
当然、仕上げのグレードを下げると将来のメンテ費用も下げることが可能な領域が出てきます。ひいては使用料が下がりますからもっと稼働率が上がるかもしれません。私はビジネスをする人間ですからこの器をどう運営し、どう維持していくのか、5年後、10年後のことを先に考えます。
森元首相はレガシーにしたいのでしょうか?申し訳ないですが、ラグビーのW杯がどこまで盛り上がるのか、私には全く想像がつきません。少なくとも安倍首相が支持率アップのために本件に本腰を入れたということだけはプラスの材料だと思います。期待しましょう。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 7月17日付より