一国平和主義の亡霊

2015年08月22日 02:00


北朝鮮の金正恩第一書記は「準戦時体制」を宣言し、韓国が22日までに宣伝放送をやめないと攻撃すると発表した。ところが国会は、安保法案の想定している周辺事態が「野呂田6事例」か「大森4要素」かなどという些細な問題で紛糾している。

これに安倍首相が「そんなことどうでもいいじゃないか」というヤジを飛ばしたことが問題になっているが、まさにどうでもいいことだ。それより首相はこんなくだらない国会審議につきあわないで、官邸で朝鮮半島の情勢を分析してほしい。

参議院に入って野党の質問は憲法問題に集中しているが、憲法第9条さえ守っていれば平和が保てるものではないことを北朝鮮は教えている。このような一国平和主義が国会で論議されるのは、世界でも日本だけである。

こういうことになったのは、いろいろなボタンの掛け違えが原因だ。Vlogでもいったように、1951年に吉田茂がアメリカの要求する再軍備を拒否したことが大きいが、その後も改憲勢力は2/3を取れなかった。これは全面講和から安保反対に至る左翼勢力の抵抗が強かったためだ。

南原繁や丸山眞男の提唱したのは、国民の自衛権を認めた上で国連を中心にした集団安全保障だったが、これも冷戦の激化と国連の無力化でリアリティを失い、彼らは平和運動から撤退した。安全保障の枠組なしで「非武装中立」という一国平和主義は、南原や丸山の思想とはまったく違う。

60年代には自衛隊が増強されて、憲法も争点にならなくなったが、その後も労働組合の政治スローガンとして「憲法を守れ」は残り、一国平和主義が野党の結集軸になった。70年代までは社会主義という共通のビジョンがあったが、社会主義が崩壊すると、残るのは憲法第9条だけになってしまった。

90年代には村山首相が安保と自衛隊を認めて社会党は崩壊したが、一国平和主義の亡霊は、その後も残った。その最大の理由は、野党が1/3以上を占めるかぎり憲法改正を阻止できることが抵抗勢力としての防衛線だからである。

さらに問題をややこしくしているのは、自民党の憲法改正案が「家族の相互扶助」などを規定する時代錯誤なものであることだ。このため「憲法を改正すると明治憲法に戻る」という反対論が出るが、あれは自民党の試案にすぎない。現実的なのは、第9条第2項だけを削除することだろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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