なぜ金利が上がると国債の値段は下がるの?

池田 信夫

株安

中国の株価暴落で世界の株価がいっせいに下がり、金融市場があやしくなってきました。これをきっかけに世界的にバブル崩壊が起こる可能性があります。株式市場だけならいいのですが、リーマンショックのように金利が上がって債券市場が崩壊すると、金融危機になります。

特に日本の長期金利(国債など長期債券の金利)は、いま0.3~4%と世界史上最低の水準で、多くの専門家が「これは日銀の財政ファイナンスによるバブルだ」とか「そのうち国債が暴落する」と警告していますが、金利が上がると、なぜ国債の値段は下がるんでしょうか?

金利というのは、債券を一定の期間もっていたらもらえる利子のことです。たとえば金利1%で発行された額面100円の10年物国債Aを保有していると、毎年1円の金利がもらえます。その満期までの期間が平均5年だとすると、もらえるのは1円×5年=5円の金利と、償還されるときの価格100円の合計105円です。

ここで金利が上がり、新しく100円で発行される5年債Bの金利が3%になったとすると、3円×5年で金利は15円になります。このときAが市場で売れるためには、残り5年で得られるリターンがBと等しくなければならない。つまり今もっている国債Aの市場価格を100×Aとすると、

100+5=(100+15)×A

でないと売れません。この計算は小学生でもできますね。Aは約0.91、つまり91円でないと売れません。金利が3%に上がると、今もっている国債Aの価格は自動的に9%下がります。つまり金利上昇=債券価格の下落なのです。市場で取引されるのは債券価格で、金利はそこから逆算します。

金利が上がって銀行のもっている国債の価格が下がると、評価損が出ます。長期金利が2%上がると民間銀行は10兆円の評価損を出すといわれているので、長期国債をたくさん抱えている地方銀行や信金などはつぶれるでしょう。

いま長期金利が上がらないのは、マーケットが日銀のインフレ目標を信じていないからですが、アメリカのジャンク債市場が崩壊したりして債券市場が荒れると、金利が上がる可能性もあります。

そうすると日銀は約300兆円の国債をもっているので、金利が2%上がっただけで30兆円以上の評価損が出ますが、日銀の自己資本は5.7兆円しかないので、債務超過(普通の会社だと倒産)になります。日銀は普通の銀行と違って債務超過になっても政府に穴埋めしてもらえますが、その財源は税金です。

「日銀が保有する国債を売らないで塩漬けにすればいい」などという人がいますが、日銀が売らなくても民間銀行が売り逃げると、金利はどんどん上がります。海外のヘッジファンドも国債の空売り(高値で売って安値で買い戻す)をかけてくるでしょう。

300兆円の国債の金利が5%になっただけで、金利の支払い(国債費)は15兆円。その上に日銀の評価損を政府が埋めると財政は破綻します。輪転機をぐるぐる回してお札を印刷するだけで経済がよくなるなんて、うまい話はないのです。今度の騒ぎで、安倍さんもわかったでしょうか。