24時間テレビが終了しました。平均視聴率が15.4%、瞬間最高視聴率は34.6%を記録しました。ところが、番組終了後に24時間テレビを批判する声も上がっています。改めて、同番組の意義や役割について考察してみます。
●24時間テレビの功績はなにか
24時間テレビは「社会のなかに障害者が居ることを一般的に知らしめた」という点で非常に大きな役割を果たしました。昔は障害があることで隠されて育てられた子供たちがいました。番組放送当時の1978年当時は、障害者に対する理解が乏しかったのです。障害者が働く場所も少なく、子供たちのご両親は「この子を残して死ねない」「この子になにを残せるのか」と自問自答しながら過ごしていたことと思います。
その後、社会のなかには多くの障害者がいること。それが広く認知されたことで国の政策にも影響を与えていきます。未だ福祉先進国には遠く及びませんが、障害者が働ける環境が整い、親に頼らず障害者の自立を促す方向性に機運が高まってきました。24時間テレビはこれらの流れに呼応して一翼を担うとともに大きな役割を果たしてきたように思います。
1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(Pennsylvania Association for Retarded Children,PARC判決)と宣言しています。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピング(教育の放棄)を招く危険性があることへの警告です。内閣府の平成26年度障害者雇用状況によれば日本における障害者数は、身体障害者366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者54.7万人(同4人)、精神障害者320.1万人(同25人)であり、およそ国民の6%が何らかの障害を有しているとされています。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもあるのです。
●毎年恒例であることの弊害も存在する
38回目を迎えた24時間テレビは夏の風物詩であり恒例行事として認知されています。日本テレビを代表する番組であることから毎回高い視聴率を獲得しています。しかし、番組内容を刷新しながらより良いものにしなくては視聴率も募金も集めることはできません。番組担当者にとってマンネリ化することは避けなくてはいけない事案です。視聴率や募金額が減っていくようでは番組としても体裁がつきません。そこには過酷な距離を走らせてゴールできるかできないかハラハラする要素を盛り込んだ演出があったのかも知れません。
しかし過酷なマラソンを走らせることは、一つの目標に向かって一生懸命頑張っている姿を見せることにもつながります。それぞれの目標や壁は異なるものの「負けずに頑張ろう」という強いメッセージを発信することができます。素人よりもタレントの方が視聴率も高くなりますから共感する人も多くなります。視聴率がアップすることで募金額も多くなります。これは認許の範疇ではないかと考えます。
Charities Aid Foundation(CAF)によると、2012年に世界146カ国の15.5万人を対象に寄付やボランティアに関する調査を行った結果、個人の寄付活動について活発な国を順位別でならべると次のとおりです。1位オーストラリア、2位アイルランド、3位カナダ、4位ニュージーランド、5位アメリカ。日本は85位で先進国のなかでも最低レベルです。日本は先進国最低レベルの意識ですから、理論や理屈などの建前だけでは啓蒙することはできません。
●今後24時間テレビに課せられた役割とは
開発途上国の援助が変りつつあります。多くの開発途上国では簡単に解決できない問題を抱えています。これらは先進国として当事者として、開発途上国の課題を私たちの課題として解決に取り組むことが必要です。開発途上国の援助に関しては、以前は「物を作ってあげる」「物を買ってあげる」といったものから、現在では「その国の人たちが維持し運営できるよう技術支援する方向性」に変わってきたように思います。「自分の国さえ良ければ他国のことはどうでも構わない」という一国主義はもはや通用しないからです。
今後、24時間テレビは既存活動以外に、障害者自立支援に向けた取組みも期待されてくるように思います。障害者にとってもご両親にとっても、そして何時、事故や病気で障害者になるかもしれない健常者にとっても安心できる社会づくりに寄与する存在になることが期待されているからです。特に企業に対しての障害者雇用に関する制度の普及、雇用機会の増加を呼びかけたりする役割を担えたらより素晴らしいと思います。24時間テレビに課せられた役割と期待は非常に大きいものと拝察します。
追伸
私はライフワークとしてアスカ王国という障害者支援の活動を続けています。橋本久美子氏(故橋本龍太郎元総理大臣夫人)を会長にして今年で34年目の活動になりました。8月に長野県で開催した障害者と健常者の交流イベントには、小坂憲次代議士(元文科大臣)をはじめ多くの方々にご臨席を賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。
●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
Amazonプロフィール
Wellbe+(blog)