安倍首相への期待は、やはり外交

自民党総裁選で無投票再選を決めた安倍晋三首相は今月半ばでの安保法案成立にめどをつけ、長期政権をめざす。今後はアベノミクスの建て直しが最大の課題と言われる。

中国経済の減速で輸出や海外事業にかげりが見える中で、2017年4月には消費税率10%への引き上げを余儀なくされているからだ。人口減少、少子高齢化の中で経済成長を維持するのは容易ではない。

だが、成熟社会の今の日本で政府のやれることはほとんどない。むしろ政府はできるだけ何もやらないことが日本のためになる。つまり「小さな政府」に徹し、規制撤廃、行政改革を断行し、多くを民間企業の創意工夫に委ねることだ。

財政悪化のもととなる国土強靭化計画など絶対に推進すべきではない。本四架橋、青函トンネル、東京湾アクアライン、北海道の高速道路などに見るように、すべて赤字を垂れ流す元凶だ。

政治家と役所が土建業界と結託する予算の大盤振る舞いは、国土強靭化ではなく、国費蕩尽化計画なのである。

だが、満州で国土開発計画を推進した岸信介氏を祖父に持つDNAからか、安倍首相は「大きな政府」への傾斜が強いのが玉にキズである。

「民間企業を信頼せよ。自分の手柄と権益拡張をもくろむ陣笠代議士や官僚の甘言に乗ってはいけない」と言いたい。

むしろ安倍首相の長所である政治外交の世界での活躍を期待したい。まずは長年の課題である憲法9条の改正に取り組むこと。簡単にはできないだろうから、同時に外交課題を実現に取り組むことが大事だ。

1つは北方領土問題を軸とするロシアとの外交交渉だ。ウクライナ問題による欧米の経済制裁と原油価格の下落でロシアは経済的に窮迫しており、極東開発で日本の支援を望んでいる。そこを足がかりに北方領土返還交渉を前進させる。

メドベージェフ首相ら閣僚が択捉島に上陸して開発を進めようとするなど、日本人の感情を逆なでする行為に及んでいるが、それは表面的なことであり、日本が支援をほのめかせば、必ず反応するはずだ。

ウクライナ問題を抱える米国と欧州は日本のあからさまな対ロ援助を許容しないだろうが、ここにこそ安倍外交の本領がある。

ホンネでは米欧もあまりロシアを追い込んで対立を深めたくない。ウクライナ侵略を拡大しなければ、雪解けに持って行きたいと考え、落としどころを探っている。その着地点は容易ではないが、もしかすると、雪解け外交の突破口を築くのに最も適しているのは安倍首相かも知れないのだ。

ウクライナ問題と北方領土返還交渉と極東開発をつなげて日ロ米欧全体のウィン―ウィン関係を築く。それができれば世界の外交史に残る偉業となるだろう。

それは日中関係改善のテコともなる。

米中関係は今、凍てつきつつある。習近平国家主席は今月下旬に米国を訪問するが、習氏が希望した米議会での演説は米側が拒否した。4月に熱烈歓迎された安倍首相とは好対照だ。

アラスカの米国領海に中国軍艦5隻が航行するなど中国のあからさまな軍事行動や米国へのサイバー攻撃が目立ち、中国内で人権侵害も続くことから米国では中国非難の大合唱が起こっている。

「国賓待遇をやめろ」、「訪米をキャンセルせよ」、「ハッカーを止めない中国を制裁せよ」という声がメディアや共和党などの間でこだまし、大統領選を控え、オバマ大統領も融和的な態度をとれない。

上海株暴落で米国の株価も下落し、アメリカの個人投資家も中国への不満が高まっている。これまでの中国重視とはすっかり様変わりの状況だ。

ただ、そうは言っても、米国の国債を大量に購入しているのは中国であり、中国経済の失速で国債投資が大幅に減少するのは米国も困る。

中国そのものも経済失速でホンネでは日本の協力を得たい。安倍首相の活躍の余地は大きいのだ。
もっとも外交はリスクと背中合わせ。日本に世界を股にかけた外交ができるなどと、夜郎自大に陥ったらとんでもないしっぺ返しを食らうことだろう。

だが、それだからこそ、これまでの首相にはない優れた外交力を持つ安倍首相への期待も大きいのだ。ぜひチャレンジしてもらいたい。