民主党の枝野幹事長は、9日の記者会見で、次のように語りました。
ナチスは民主的な選挙で権力を手中にした後に、全権委任法という立憲主義を破壊する法律を成立させ、暴走独裁を始めた。今回の安保法制も、全権委任法とはレベルは違うが、同じように立憲主義の破壊だ。そして、この法案成立のプロセスは、「憲法秩序の破壊」であり、ある学者の言葉によれば「一種のクーデター」だ。
欧米では「ナチス」とか「ファシスト」と呼ぶのは最悪の侮辱で、名誉毀損罪に問われます。公党の幹事長が、負け惜しみでこんなことをいうのはみっともないですね。実際のヒトラーは、どうやって政権を取ったんでしょうか。
枝野さんは勘違いしているようですが、ナチスは1933年に「民主的な選挙で権力を手中にして」全権委任法を制定したわけではありません。選挙でナチスは第一党でしたが、過半数に達しなかったので、ヒトラーを首相に指名したのはヒンデンブルク大統領です。
全権委任法は、絶対多数の党がないため混乱する国会を収拾する時限立法として、それまで何度も制定されていました。このときは国会議事堂の放火事件などの混乱を利用して共産党員などを拘束し、2/3の多数で可決されました。これは次のような法律です。
- 政府が国会を無視して立法できる
- 政府は憲法に反する法律を制定できる
- 政府が制定した法律は国会が承認しなくても施行できる
これを使ってヒトラー首相はただちに閣僚を解任し、内閣をナチスの党員で固め、共産党員を逮捕し、ナチス以外の党をすべて解散しました。もし安倍さんがヒトラーなら、枝野さんはとっくに逮捕されて、民主党は解散されているでしょう。
しかしヒトラーのやったことを「クーデター」とはいいません。それは「既存の政治体制を構成する一部の勢力が、権力の全面的掌握または権力の拡大のために、非合法的に武力を行使すること」(大辞林)ですから、武力を使わないで合法的に首相になったヒトラーの政権掌握は、クーデターではないのです。
今回の安保法制は、昨年7月に閣議決定されて内容も公表され、民主党はそれに反対して去年の総選挙でボロ負けしました。全権委任法なんか使うまでもなく、与党は衆議院の2/3を獲得したのだから、それが民意なのです。
しかも安倍内閣は法制局の「集団的自衛権は保持しているが行使できない」という見解を「行使できる」と変更した上で、関連法案を国会で承認するという手続きを踏み、半年近く審議しています。憲法解釈の変更は内閣の職権でできるのに、むしろていねいすぎるぐらいです。
民主党はくやしかったら、選挙で勝てばいいのです。内閣不信任案を可決して、衆議院を解散させることもできます。そういう民意はなかったので、予定どおり参議院で可決するだけです。民意は数千万人の選挙で示されるもので、数万人のデモを民意とはいいません。
このように歴史も知らないで、自分の気に入らない政権をナチス呼ばわりするのは、昔から日本のだめな野党の癖です。自民党は公式に抗議して、こういう子供の教育にも悪い嘘をやめさせるべきです。