「日本共産党とともに生きがいある人生を」考

若井 朝彦

京都、とりわけ京都市街は日本共産党(以下「共産党」と略する場合あり。この稿には中国共産党やロシアの共産党のおはなしは出てこない)の強い地域である。町のポスターでは、自民党を優にしのぎ、公明党をもまだ上まわる。

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枚数の多いのは候補者のポスターだが、政策スローガンだけのものも種類があり、その中からご自身の意見と同じものを慎重に掲げている、といった家も多い。

あるとき見かけたのが

「日本共産党とともに生きがいある人生を」

のポスター。愕然としたものである。宮本議長の演説風景に言葉が重ねてあったはずだから、かなりむかしのこと。そんな古い記憶なので、字句が若干ちがうかもしれない。しかし検索をかけると、このキャッチはまだ現役で使用中である。先見の明というべきであろう。

その後、社会党、民社党は国会、地方議会において消滅したが、共産党はおおむね同規模で頑張っている。一見おだやかな感じのスローガンだが、この大胆な、かつ密やかな路線転換がなかったとしたら、今日、日本共産党は日本共産党として存在しただろうか。大いに怪しいと思う。

こうして日本共産党は、「起て!飢えたるものよ」(インターナショナル)や「奪いさられし生産を 正義の手もて取り返せ」(聞け万国の労働者)からはさらに距離を置き、政党活動の趣味化をはじめたと言えるわけだが、このところその傾向はさらに著しい。近年のポスターに見える

「命の平等」

にしても

「 京都から 憲法守る 」

にしても

「 アメリカ 言いなり もうやめよう 」

にしても、内容にはピンとこないものがある。趣向を同じくする支持者にとっては気持ちよく一票を投じられるかもしれないが、この命の平等とは、範囲あってのことであろうか、それとも無範囲のことなのであろうか。経済のグローバル化をどう評価しているのであろう。西ヨーロッパに殺到する難民(移民)問題など、見解を聞いてみたいものである。

これまた古いはなしではあるが、京都の共産党は、蜷川京都府知事を長きにわたって応援し(ただし一時断絶あり)、蜷川虎三から多くを学んだはずだが、蜷川のスローガンはまだ明瞭であった。「住民の命と暮らしを守る」であり「憲法を暮らしに生かそう」である。イデオロギーのカタマリみたいに揶揄された虎さんであったが、施策は、生活中心の地味なものが多かった。

そのころの京都共産党には与党病があったほどである。現在は野党病であろうか、実務的な商品はなかなか見られない。来年の市長選でも、「戦争法反対」で押し出すそうだ。投票日が2月7日と決まったこともあって新手のポスターが貼り出されはじめた。

「 子どもは みんな未来 いま憲法市長 」

分かるとか、分からないとか、そんな段階は越えている。支持者の人気ワードを順にならべてみました、なのかもしれない。こんな表現になるについては、公選法とのからみもあってのことなのだろうが、同じ調子で選挙公報を作られた日には、わたしは暗号解読器を要求したい。

共産党にとって京都市長選は、絶対に勝てないという選挙ではない。市長選を国政選挙の準備体操にしてもらっては困るのだ。市長選は市長選として、明瞭に勝つ意志のある、市政の舵取りの可能なプロフェッショナルな候補で、きちんと市長選の土俵に上がって欲しいものなのだが。

ところで1970年代、共産党がいわゆる革新連合政権を構想していたころでも、防衛政策を問われると、

「自衛隊は違憲だが、将来、国民的合意を得て防衛組織を持つ」

という責任ある見解がすらっと出てきたものだ。上田耕一郎氏の明晰な声を思い出す。これは憲法改正を意味していたのであろう。

当時の共産党と、現在の共産党では綱領がちがう。だからこの古い見解はもう使われなくなっていた。ところが近日、志位委員長から「日米安保維持」「自衛隊活用」の発言が出た。

だがこれは、かつての見解の延長線上にあるものとはいえまい。現在の綱領ともあきらかに一致しない。志位氏による一種の綱領の「解釈修正」。近年や現在のポスターに見えるスローガンとも齟齬が生じている。

綱領については党内で解決すればすむことであり、またこの修正は大方の賛同を得るだろう。けれども最大の問題はこれまでの経緯と、その言葉遣いだ。

「日本に対する急迫・不正の主権侵害など、必要にせまられた場合には、この法律にもとづいて自衛隊を活用することは当然のことです」

わたしは、「人民から敬意をはらわれない軍隊、また傭兵が、本心から人民のために闘うことはない」というのがマキャベッリの要諦だと心得ているの者だが、上記の発言を聞いて快く思った自衛隊員がいるとは、どうにも思われない。

 2015/10/19
 若井 朝彦(書籍編集)

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