「クール・ジャパン!?」 --- 中村伊知哉

2015年11月16日 13:45

鴻上尚史さん著「クール・ジャパン!?」。刺激的です。



NHKクールジャパンは10年目になります。ぼくは5人の御意見番の一人。これまで出演したのは60本!最近の日本スゲぇ番組の先駆けですが、ホメてるばかりじゃなく、辛辣な外国人の視点に驚くことも多い。そこが魅力です。

本書にはさまざまなネタが登場します。ママチャリ、納涼、100円ショップ、コンビニ、マン喫、ゴスロリ、ラーメン、おもちゃ、食べ放題、ゆるキャラ、水族館・・多くがぼくが出演したときのものです。

ぼくが出演したテーマ。ポップカルチャー:マンガ、アニメ、ゲーム、音楽、カラオケ、秋葉原、制服、ファッション。食:麺、どんぶり、居酒屋、レストラン、家庭料理。に加えて、友達、夏、子育て、女子、恋人、礼儀、歳、涼む、マナー、出会い、といったものも。「クール」の幅が広いでしょ。

NHKの番組で、フランス人がマンガを「コーチングのいらない唯一の日本文化」と評した件。お茶お花空手歌舞伎など日本文化代表はコーチングが不可欠。クールジャパンは海外から入ってきた日本評だが、クールとされるものはいずれもコーチング不要で広がっていった文化ではないかな。

クールジャパンなる言葉は2002年のダグラス・マッグレイ論文が嚆矢とされますが、マンガアニメゲーム等のエンタメコンテンツから、食、ファッション、デザインへと波及し、日用品やライフスタイルにも広がりをみせた。番組の守備範囲も実に広くなっています。

鴻上さんの本が紹介する洗浄器付き便座、100円ショップ、自販機、コンビニなどのスゴさは知っていましたが、番組を通じて海外の評判を知ったものもたくさんあります。

たとえば、居酒屋ブーム。飲みながら食事し、食事しながら注文するスタイルが海外では新鮮であること。

たとえば、水族館。日本人の水族館好きがハンパなくて、ハイテクな文化を築いている。

たとえば、犬。人犬一体の文化を築いていて、日本の犬が海外で人気を博している。

日本ポップカルチャーの特徴として、ぼくは多様性、庶民性、大人子どもの文化融合、技術融合を挙げることが多かったのですが、番組を通じて、「自由」と「輸入起源」にも気がつきました。

自由。鴻上さんの本が紹介するゴスロリやコスプレが典型です。フランス人が日本は自分の着たいものを来て街を歩いている、自由だ、と評した話。食べ放題や飲み放題は日本だけ、という話。居酒屋スタイルも自由さの現れ。そうか、ぼくたちは、自由だったんだ。

輸入起源。アニメもゲームも元は舶来技術。制服もゴスロリも洋装を日本が発達させたもの。コンビニもアメリカのビジネスを日本が発達させ、今や輸出産業に。クールとされているものはほぼ輸入・加工して輸出しているものではないでしょうか。

鴻上さんが紹介する食べものクールも、日本起源のオムライス、インド人がおみやげにするカレールー、調理パン、みな輸入モノの発展系。中国にない中華丼も、王国とされる高みを築いたラーメンも。

銀座を行く人にカラオケ機で一曲たのむと、日本人はみんな歌う、外国人は歌わない、という実験のお話。ぼくも逆の結果を予想していたので、スタジオで驚きました。なぜだろう。音楽の授業が充実しているからか? 以来、シャイと自己規定していたぼくらは実はそうではないのでは、と考えています。

「ステージ」という回でも、日本人は議論や主張は苦手だけど、歌ったり演じたりする表現の敷居はとても低い、という面が明らかになりました。「ネットコミュニケーション」の回では、ネットでの発信や絵文字コミュニケーションが異常に発達していることが明らかになりました。この番組は日本人の自己認識を問いかけます。

鴻上さんは「世間と社会」という切り口で整理します。日本は世間と社会とにコミュニティやコミュニケーションが分かれる。欧米には世間がなく全てが社会。これによる行動・言動の差が生じるというもの。これでストンと落ちることも多いです。

一方、日本にはないけどいいなぁと思うことも。たとえば、デーティング・ピリオド。西洋人が本格交際するまでに何回かデートする(H含む)お試し期間のこと。これを知った時はぼくも衝撃でした。お前らそんなのアリだったのかよ。早く教えろよ。

G8でパスポート取得率が最下位は日本24%、次がアメリカ35%。「自分の国を出る必要もつもりもない国民」と鴻上さんは評します(イギリスは70%)。自らを知らなくて済む田舎者が、外からホメられて戸惑う姿をクールジャパンと呼んでいる、のかもしれません。

鴻上さんは、昨今のクールジャパン騒ぎについて「官主導の売り込み戦略に反発するのは当然」とします。同意です。この番組のおかげでクールジャパンの認識は広まった一方、官が乗り出したことで「色」がついた面はあります。これをどう考えるかもぼくらの課題。

鴻上さん「政府ができることは「場」の提供」としつつ、「クールジャパン機構が出資するTokyoOtakuModeが販売するフィギュアにどぎつい物があるという理由で、サイトから商品と写真が消えた。政府は場の提供ではなく「判断」をしている」と批判します。そして、「これがフィギュアというアートだと胸を張って言う文化的矜持が官僚にも政治家にもない」とします。さきごろ春画展が大英博物館で成功したのに、国内では強く残る自主規制が邪魔をしている事例がありましたが、民も含めて考えるべき課題かと思います。

「演劇、映画、小説、アニメ、マンガ、ダンス・・・あらゆる分野で、客観的な立場に立って「場」を用意できる日本人プロデューサーがいない。」「ここに政府がやるべきクールジャパンの仕事がある。」御意。人材、特にプロデューサ育成が課題であり続けています。難問。

「クールジャパンを海外で展開する時に一番大切なことは、「早急に成果を求めない」ということ。」「政府はなにもしないでくれ、という人だけの世界になると、欧米・韓国の税金を使った場作りに負けてしまう。」これも御意。しかし成果を上げねば施策が打ち切られてしまう。悩ましい。

10年続いているNHKクールジャパン。外国人たちのストレートなコメントを受けつつ、クールジャパンをどうするのか、ぼくもしばし考え続けたく。みなさま、引き続き、よろしく!


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年11月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。


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