難しいもんじゅの存続-再稼動費用、数千億円か

2015年11月19日 00:07

石井孝明
経済ジャーナリスト

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悲しき国家プロジェクトの挫折

長期停止により批判に直面してきた日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」が、事業の存続か断念かの瀬戸際に立っている。原子力規制委員会は11月13日、JAEAが、「実施主体として不適当」として、今後半年をめどに、所管官庁である文部科学省が代わりの運営主体を決めるよう勧告した。残念ながら、その代わりの組織はなく、存続はかなり難しいだろう。そして資金の問題もある。

原子力の国家プロジェクトがつぶれたのは、1980年代の「原子力船むつ」、新型転換炉「ふげん」などがある。そしてもんじゅも今、厳しい状況だ。もんじゅにかけた、日本の原子力研究者たちの夢が壊れてしまう。日本の原子力研究者の最優秀の人々が高速増殖炉の研究にかかわってきた。これまで投じられた国費1兆円の問題もある。この状況は非常に悲しい。

「発電することで燃料の核物質が増え、それをまた発電によって使うことで、エネルギーの不安がなくなる」。こういう「増殖」という現象を活用しようという期待から、もんじゅは推進された。また使用済み核燃料をリサイクルする中で取り出される核物質プルトニウムを使うことも構想された。

はじまりでは、高速増殖炉は、無資源国日本のエネルギー事情を根底から変えるとの期待があった。原型炉の手前の実験炉「常陽」(茨城県大洗町、現在運転停止)が1977年の運転開始以来、順調に推移したことから、もんじゅも成功するとの期待があった。

過去の新聞を読むと、高速増殖炉の構想が発表された1960年代、「夢の原子炉」「日本の科学技術を結集」など、好意的な記事が並んでいる。国民的な期待が高速増殖炉構想にあったことが分かる。ところが、今の新聞は批判一色だ。時代の流れも、原子力への期待から懐疑へと大きく変化した。

「もんじゅ」は、運転開始早々の1995年12月のナトリウム漏れ事故発生とその後の事故隠しなど一連の不手際や不祥事で、長期停止に陥った。不手際が野党によって政争の道具にもされ、反原発を唱える人々の格好の批判対象になった。累計の投資費用は主に税金で1兆円だ。その維持管理だけで毎日5000万円がつぎ込まれている。

運転再開に巨額の費用

報道によれば、もんじゅの青砥(あおと)紀身(かずみ)所長は11月17日、勧告後初めて取材に応じ、「はしごを外されたという感じで、唐突感がぬぐえなかった」と不満を述べた。

青砥所長によると、日本原子力研究開発機構の理事長が春に交代し、半年が経過したばかり。青砥所長は「規制委とは、昨年12月に出した報告書をどのように補正していくのかという話もしていた。それが突然タイムオーバーになった」と慨嘆し「やるべきことは見失わない」と、述べている。

たしかに規制委の行動は他の混乱した原子力規制行政と同じように唐突で、事業者の混乱を招いているようだ。しかし、もんじゅも、これまで停まり続け、ミスを重ねた現実がある以上、不満だけでは再稼動を世論に納得させることにはならないだろう。

もんじゅを運用できる組織はもうなさそうだ。三菱重工などの建設、管理を協力した会社がコンソーシアムをつくる方法があるかもしれない。また当初は、もんじゅ終了の後で、商業実験炉は日本原電が担うことになっていた。原電への移管の可能性もある。しかし、重工も、原電も政府の支援がない限り、高速増殖炉の運営には踏み出せないだろう。

原子力規制委員会は今、各原子力施設に、新規制基準による適合性審査をしている。多くの炉では、耐震対策などの1000-1500億円の改修費がかかっている。もんじゅは、その審査の判定基準もつくられていないが、同程度の改修費がかかる可能性がある。
 
さらに20年間、ほとんど動かなかったプラントを再稼動させるのは、徹底的な検査、つくり直しをしなければ、かなり運転は危険だろう。その改修費用も不明だ。

またもんじゅのプルトニウム燃料は約25年前にフランスから購入したもので、物質が変容・減衰している可能性がある。これにも巨額の作りかえ費用がかかる。公開資料でその額は確認できなかったが、燃料購入時は数百億円の費用がかかったという。

これらを考えると、本格的な再稼動はさらに1000億円以上の費用がかかるかもしれない。再開ではこの金額が大きなハードルになるだろう。各原発は発電プラントであり、電力会社は回収の見込みがあるために投資をした。ところが、もんじゅは実験プラントで発電出力は28万kWでしかない。投資の回収は見込めないだろう。商業用の発電をするためには、もう一回り大きくする必要がある。しかし、そこまでつきあって金を出す民間企業も電力会社もないはずだ。

さらに、もんじゅの設計、建設にかかわった世代は、すでに70歳前後と引退の時だ。「現場のプラントを動かした経験があり、高速炉、化学反応など多面的な知識を持ち、判断を下せるという、幹部にふさわしい人材は、原子力関係者の中に見当たらない」(研究者)というという声もある。

筆者は、門外漢で詳細な説明はできないが、もんじゅは炉の冷却にナトリウムを使う。ナトリウムが化学反応を起こしやすいために、これはかなり難しい技術らしい。研究の先行した日仏の動きは止まってしまった。ロシア、中国が別のタイプの高速炉の研究を続けているだけだ。
 
高速炉、それを前提にした新型炉は1980年代以降、新しい技術コンセプトが次々と登場した。また周辺のプラント管理の技術も急速に進化している。もんじゅの設計思想も、設備も、安全性、効率性の面で時代遅れになっている可能性がある。

難しい撤退の後始末

ただし後始末も大変だ。日本は米国と原子力協定を1988年に結んだ。その中で、原子爆弾などの兵器に転用されるプルトニウムを余剰に持たないことを約束した。そこでは、近日中の高速増殖炉の実用化によるプルトニウムの消費が、日本の主張の前提になっている。それで交渉は辛うじて妥結した。

その更新が2018年に迫る。日本は、核燃料サイクル政策を維持するか、プルトニウムの管理をどうするか、国内、国外の双方での議論を重ね、定義し直さなければならない。

さらにこのプロジェクトから得られた知見を、失敗を含めて総括する必要があるだろう。しかし、日本の失敗したプロジェクトによくあるように、口先の「反省」「懺悔」はあっても、責任の所在があいまいになり、真の教訓を得られないことが起こってしまうかもしれない。

まさに「前門の虎、後門の狼」ともいえる状況で、継続するにしても、断念するにしても、困難が待ち構える。現実を受け止め、後始末の混乱に配慮しながら、このプロジェクトに悲しき弔鐘を鳴らさなければいけないだろう。

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