死につつある青年と砂漠のベルベル人 --- 鈴木 健介

2015年12月04日 06:00
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アフリカ大陸の北西部、ジブラルタル海峡を渡ればすぐヨーロッパという位置に、モロッコはある。海峡をフェリーで渡り、港町タンジェ、青のシャウエン、古都フェズと旅し、そこからバスで8時間。サハラ砂漠の玄関口メルズーガに到着した。

旅人目線で、世界をこう分けてみる。

ユーラシアとアフリカ大陸サハラ以北を「旧世界」。南北アメリカ大陸とオセアニアは「新世界」。サハラ以南のアフリカは「ブラック・アフリカ(サブサハラ・アフリカ)」。

「旧世界」には、四大文明が生まれ、いつも世界史の中心はここで、いくつもの国が興っては滅んでいった激動の場所。私の今までの旅は全てこの旧世界の中に留まる。ここモロッコのサハラ砂漠入り口とは、日本から旅をしてくると、その旧世界の果ての果てに感じられる。

実際に、サハラ砂漠を境に北と南では劇的に文化圏が変わる。この砂漠を越えることは容易ではない、ということを、しみじみ思わせる。

メルズーガの宿、ワイルドネス・ロッジである本を薦められた。実際にその本を読めたのはこの次に訪れる渓谷の街ティネリールではあるが、内容は1960年代に1人の日本人の青年が、当時まだ世界で誰も達成したことのない、ラクダによるサハラ砂漠単独横断を試みた実話の話である。

その青年は周到に準備をして、現地でラクダの民にラクダの扱いを学び、決行後も慎重かつ大胆に行動したにもかかわらず、サハラで迷い、死んだ。原因は年若いラクダの選択、そしてその血気盛んなラクダの、逃走であった。全ての荷物とともにラクダは逃げてしまい、彼に待ち受けたのは、乾きの地獄。

その本は青年の日記を元に書かれている。「死につつある人間」の日記を読むのは、なんとも言えないものだ。

現在書いているこの日記も、私の死は、おそらくまだ先のことではあろうが、たとえ遠くとも、いつかは死がやってくるのだから、「死につつある人間」という意味では、同じだろう。

人はいずれ、死ぬ。

死ぬ前に、やるべきことが、あなたにもまだ、あるだろう? 

オアシスという名の宿に移り、宿主のベルベル人に引き連れられ、ラクダに乗りこみサハラ砂漠(メルズーガ大砂丘)へ向かった。

ベルベル人とはモロッコに住む先住民族で、社会的にはアラブ人の支配下にある。おおざっぱに言って、エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、これらサハラ以北のアフリカは中近東と同じくアラブ人の住む世界。宗教はイスラム教、気候は地中海沿岸には温暖なところもある。なので私は今回、初めてアフリカ大陸の地に足をつけたが、「アフリカ来たぞ!」という感じはなく、中近東ヨルダン・イスラエルの旅の延長のような気分で、ここモロッコにたどり着いた。日本人が想像するアフリカとは、サハラ以南のことになるだろう。

ベルベル人は主にサハラ以北のアフリカで広範囲な地域にまたがって生活している。その総数は1,500万人ほどと言われるので、国家を持たない最大の少数民族クルド人が2,500万人ほどと言われているから、ベルベル人の数の多さに驚く。ちなみにアラブ化したベルベル人をベドウィンと呼び、リビアの故カダフィ大佐などが有名だ。

立ち上がったラクダの高さは思いのほか高く、馬とは違い、右手と右足が、左手と左足が同時に進行するため、かなり揺れる。しかし乗ってみると、この長い手足はまさに砂漠を歩行するのにぴったりだ。人間や馬の足では砂に沈み込んでしまい、思うように歩くことができない。

ベルベル人が被るこのスカーフは、砂嵐や太陽の直射を避けるのに役立つ。スカーフだけでなく、衣食住全てが砂漠で生きるのに適している。

人間は、他の動物や昆虫と同じように、住む環境によって生活を変える。これが知恵だと言うのなら、全ての動物や昆虫も同等の知恵があるということになる。人間が作り上げた現代文明や都市なるものも、ただ環境に合わせただけの代物であって、それはアリの巣や蜘蛛の巣が複雑なのと、なんら変わりはない、ということであろうか?

砂漠に入って30分もすると、あたりは一面の砂漠である。方向感覚が全くわからないため、1人で迷ったらとても抜け出せそうにない。自分の命をベルベル人とラクダに委ねているようだ。

砂漠のど真ん中にある常設テントで一夜を明かした。砂漠の中とは思えないほど快適で、各自ベッド付きの個室テントがあり、食事用の大きめなテントも用意されていた。トイレはないので、外で用を足す。あれに関していえば、一瞬のうちに乾燥し、これなら数日で砂と化してしまうことがよくわかる。

夜はベルベルの食事と音楽が待っていた。旅の一行は約10名、みなでベルベルの食事に舌鼓をうち、楽器を演奏し、楽しんだ。息子はラクダに疲れてしまったのか早めに寝てしまったが、聞こえてくるこの音楽は、心地よい子守唄になっただろう。

夜は当たり前のように満点の星空で、星が眩しいと、胸をはって言える。


鈴木 健介

無職37歳。
バックパッカー。訪問42ヶ国。
音楽家。現在休止中。シングル「善悪無記の形相」、アルバム「ドクサ」発売中。
早大卒。

旅での思索を書いた日記、けんすけのこばなしより
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