なぜ反イスラム発言でトランプの支持率は落ちないか

2015年12月11日 22:00

反イスラム発言でホワイトハウスがトランプ氏を「大統領失格」と明言、しかし・・・

全てのムスリムを米国に入国禁止にするという発言が国内外のエスタブリッシュメントから非難を浴び、ホワイトハウスからはトランプ氏を名指しで大統領候補失格とする痛烈な罵倒が浴びせられました。

トランプ氏は民主党だけでなく共和党エスタブリッシュメントから煙たがられており、それらの人々による「彼はエンターテイナーである」という蔑視した発言が度々取り上げられています。

しかし、大問題となった反イスラム発言があっても、トランプ氏の支持率は落ちていく様子はありません。本ブログはこれら一連のトランプ氏の暴言がトランプ氏の明確な選挙戦略によるものと推測します。

たった一代で資産1兆円を築いたトランプ氏を馬鹿だと看做す人々は世間知らずであり、今回は記事ではトランプ氏の行動から見られる冷静な選挙戦略を確認していきます。

トランプの支持率が落ちない理由は、エスタブリッシュメントへの反感にこそある

私は共和党大統領予備選挙についてトランプ氏の優勢が継続することを一貫して主張してきました。結果として、他の日本人の米国研究者らによって支持率の下落が確実視されてきたトランプ氏の支持率は落ちることなく高い水準をキープしています。

<米国大統領選挙に関する過去拙稿>
支持率の変化から見た共和党大統領選挙予備選挙(11月6日)
マルコ・ルビオ上院議員、米国共和党予備選挙で注目(11月16日)
ドナルド・トランプの強さの秘密を徹底分析(11月25日)
2016米国共和党予備選挙、トランプ爆走を止めるのは誰か?(12月8日)

トランプ氏の支持率が落ちない理由は「米国内のエスタブリッシュメントがトランプ氏の支持率が落ちると言っているから」に他なりません。それらエスタブリッシュメントの発言が彼らを毛嫌いするトランプ支持層からトランプ氏への強固な支持を固めていると言えます。

実際、共和党支持層への世論調査では発言自体への賛否が拮抗しており、ムスリム自体に対する好ましくない感情は幅広く共有されている状況にあります。これらは陣営が事前に世論調査を事前に実施していれば簡単に分かることです。

つまり、今回の反ムスリム発言に対して、ホワイトハウスや国内外のエスタブリッシュメントが懸念を示したことは、むしろトランプ氏にとっては共和党予備選挙の勝利を目指す上で計算通りの結果になったと言えるでしょう。

トランプ氏が共和党内の予備選挙を勝利するためには極めて妥当な戦略

前述のとおり、トランプ氏は共和党内部から異端視されている状況にありますが、それでは最初から大人しくしていれば、トランプ氏は共和党の予備選挙で指名獲得の有力候補者になれたのでしょうか。

答えは明らかに「No」です。行儀よく選挙戦をスタートした直後、トランプ氏の支持率は他候補者よりも大きく遅れを取った状況にあり、誰もトランプ氏が現在のような優勢を築くとは思っていませんでした。

その後、トランプ氏がエスタブリッシュメントに対して敵対姿勢を見せることで、彼らに反対する支持層を効率的に取り込んできた結果が現状の優勢に繋がっています。これらはトランプ氏の積極的な行動によって掘り起こされた有権者層です。既にトランプ氏は共和党支持層の30%程度を強固な形で手中にしており、あと20%を手に入れれば共和党の指名競争で勝利することができます。

トランプ氏の次なる戦略は党内保守派から票を奪い取ることであり、具体的にはテッド・クルーズ氏に集約されつつある保守票を切り崩しつつ、そのほかの保守派の受け皿となる候補者の芽を摘むことです。

保守派の運動家に支持される候補者はベン・カーソンの例でも明らかなように、メディアによるスキャンダルなどで支持率が上限する幅が大きく(2012大統領予備選挙も同様の現象が発生)、現在上がり調子のテッド・クルーズが支持を落とす瞬間にカーリー・フィオリーナなどの他候補者ではなく、トランプ氏に乗り換え票を積み増しできるかが勝負となります。

保守派指導部からも必ずしも好意的に思われていないトランプ氏が勝利するためには、指名競争で決定的な意味合いを持つ来年3月に予定されている保守派の総会であるCPACの前に実質的な決着をつけることが必須となります。そのため、極端に見える行動で他の保守派候補を全て片づけることが必要なのです。その上で、穏健派と保守派のバランスの良いマルコ・ルビオ氏との最終的な対決を経て、共和党の指名を獲得することがゴールという見通しだと思います。

ちなみに、共和党はトランプが共和・民主でもない第三の候補者として出馬することを恐れているので、トランプ氏が暴言を繰り返しても、共和党から追放するということはなかなか難しいでしょう。

トランプ氏で共和党は民主党大統領候補者に勝利することができるのか

トランプ氏が仮に指名競争で勝利した場合に、民主党の大統領候補者に勝利することができるか、という問いに関しては、トランプ勝利の可能性も極めて高い、ということが言えます。

共和党の予備選挙候補者が全員脱落した後、彼らに仕えていた政策スタッフが全て在野に戻ることになります。トランプ氏はそれらの有能な人材をM&Aしていくことによって、自分自身の政策力を高めてヒラリーとの討論に臨むことになるでしょう。

このとき、最も重要なことは、「ヒラリーを知的かつ論理的に倒す」という政治的なインパクトを与えることです。これだけのことで、トランプ氏の評価は完全に逆転して米国大統領の地位を手に入れることができます。

自分自身の印象を良くするために「ギャップ」を利用することは選挙戦略の基本であり、現状のトランプ氏のイメージで大統領本選挙中の様子を予想することは不毛なことです。むしろ、トランプ氏は本選中のギャップのインパクトの最大化を図るための積み上げをしているとも言えます。

以上のように、トランプ陣営がどのような選挙戦略を採用しているのか、ということについて偏見を抜きにして、淡々とまとめてみました。トランプ氏はビジネスマンらしい極めてクレーバーな戦略を採用していることが分かります。

今後もトランプ氏の狙い通りにいくかは定かではありませんが、トランプ氏の高い支持率はマグレではなく、完全に計算されたマーケティングによって実行されている、と見たほうが正確に理解できると思います。

渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
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渡瀬 裕哉
早稲田大学招聘研究員、Tokyo Tea Party 事務局長

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