日本の制度変化と子供たちの技能形成と産学連携(上)

2015年12月24日 11:11

日本は制度変化の道半ばにある



今年7月に亡くなられた経済学者の青木昌彦先生は、昨年出版された『青木昌彦の経済学入門』の中で、「日本の過去二十年ばかりの在り方は、世に広くいわれる「失われた二十年」というよりは、制度体系の「移りゆく一世代=三十年」の半ばにある」という考えを示されていました。これに従えば、自民党の一党支配が終焉した1993年から東京オリンピック以降の2023年頃までが「移りゆく30年」にあたることになります。

制度はマインドセットに関わり、経済のパフォーマンスに影響を与える

「制度」とは、青木先生の定義では、「人々が「世の中はこういう具合に動いている」と共通に認識しているような、社会のゲームのあり方」であるとされます。日本の高度成長期を例にとれば、「業界団体」と「関係官庁」の結託、「終身雇用」、「メイン・バンク制度」、「象牙の塔を形作っていた」大学などが、その頃に形成された「制度」すなわち「社会的ゲームのプレーの特徴的なパターン」とみなせます。

青木先生の他にも、1993年にノーベル経済学賞を受賞したダグラス・ノースやコロンビア大学名誉教授のリチャード・ネルソンといった経済学者が同様に主張するように、「制度」は人々の「文化」や「認知」や「マインドセット」に関わり、経済のパフォーマンスに影響を与える要因であると考えられています。

また「制度」を形作る要因としては、(1)法律のような公式なルール、(2)社会規範のような非公式な制約、(3)警察や裁判所のようなルールを実効化(enforce)する仕組み、が挙げられます。これらと社会のゲームのあり方としての「制度」それ自体とのあいだには、明確な境界線を引くのは難しいとも言われています。

日本の制度体系に起きている変化とその原因

終身雇用制などの日本の制度の多くは、1950年代半ばから1970年代初めまでの高度成長期に形作られたと考えられています。しかしバブル崩壊後の頃から、「一つの会社なり省庁なりに忠誠を誓って勤続していくことが必ずしも当たり前とはいえない状態」になり、また以前は「絶対に潰れないと思われていた」金融機関が倒産する事態も起きました。

つまり、「それまで自明視されていたルールが、崩れ始め」ていて、「日本は制度変化のプロセスに入った」と考えられます。

日本で制度変化が起きている原因としては、「情報革命」と呼ばれる情報通信技術の進歩や経済環境の「グローバル化」などが挙げられていますが、ここでは特に「人口動態の変化」に注目したいと思います。

日本の生産年齢人口(15~64歳)割合は、戦後からバブル崩壊のあった1990年代初め頃までは上昇かほぼ安定の傾向にありましたが、その後は現在に至るまで低下を続けており、日本は「いまや近代史には未知の人口成熟化社会に向かって先行している」と言われています。

下の図は、国立社会保障・人口問題研究所によって作成された1960年と2015年の人口ピラミッドです。人口構成の違いをこのように比較すると、高度成長期に形成された制度の一部はもはや持続可能でないという考えには妥当性があるように思われます。特に社会保障制度に関しては、「その再設計が先送りされるならば、負担はますます若年世代に重くのしかかり、その働くインセンティブをそぐであろう」といった懸念の声が多く聞かれます。
1960

2015

出所:国立社会保障・人口問題研究所ホームページ (http://www.ipss.go.jp/

制度変化のプロセス:漸進的変化とメディアの役割

上述のノースの研究によれば、制度変化は基本的に漸進的なものであると考えられています。その理由は社会的ゲームのプレーの特徴的なパターンとしての制度が人間の文化や認知やマインドセットに関わることに求められると思われますが、軍事的征服や革命などの結果として公式なルールが急進的に改革されるように見える場合でも、文化などの非公式な制約は徐々にしか変化しないとされています。

青木先生は、制度変化における「メディア」や「学界」などの役割、またそこで闘わされる「公論」の役割を強調されていました。このプロセスに関する筆者の理解は特に不十分ですが、「顕著な公的言説」が人々の「予想」や「行動選択」に影響を与え、その結果生じる「社会的状態」が経験されることでまた「公論」が闘わされる繰り返しの中で、背景にあった「歴史的に形成された文化的予想」も「それ自体が進化していく」ようなプロセスが考えられていたのかもしれません(またそこでは「実験的な選択」や「模倣」も重要な要因になると思われます)。

(次回に続きます。ブログには全文をアップしています。)

髙橋 大樹
翻訳・執筆・調査他の業務受託/社会科学の研究(new institutional economics)
食品・飼料業界の外資系企業勤務の後、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。1978年生まれ。山口県下関市出身。東京国際交流館alumni。
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