元日の社説対決はどっちの勝ち --- 中村 仁

2016年01月02日 16:20
gantanshinbun

文学青年型の朝日と施政方針演説型の読売


活字の新聞が苦闘しています。少しでも活路を開こうと力を入れるのが元日の社説です。代表として朝日、読売を読んで比べてみました。社説は新聞社の表札みたいものです。

その前にエピソードをひとつ。昨年、スマートフォンを買い換える際、駅前のドコモショップに行きました。若い店員さんの手ほどきを受けた後、「新聞の社説を試しに読んでみたいので、開いてくれますか」と、お願いしました。店員さんは「???」なのです。「社説ですよ」と言い直すと、「社説ってなんですか」。これには驚きました。

若い世代ほど新聞を読まない、まして社説は読んでいないと、覚悟はしていたものの、「社説」という言葉そのものを知らない世代の時代がきたのでしょうか。日経紙が買収したフイナンシャル・タイムズの社説(日経で要約を掲載)は鋭い視点でコンパクトに問題点を提起しており、参考になります。広告収入で新聞はネットに追い越されたというのに、日本の新聞は進化を怠けています。新聞社説は文体を含め、一時代前の印象なのですよ。

「分断」、「連帯」の美文調に自ら酔う


まず朝日新聞から。「分断される世界、連帯の再生に向き合う年」の見出しです。読んでいて気になったのは、かつての文学青年がはまっていたであろう美文調です。「連帯」、「分断」という言葉がそれぞれ8回程度、「亀裂」、「共感」はそれぞれ3、4回も登場します。名調子に自ら酔っています。書き出しも「地球が、傷だらけで新年を迎えた」ですよ。わざわざ「地球が、」と、ここで「、」を打つところもね。

朝日のよくないところは、国際政治、安全保障を含め、政治、経済問題などを論じる場合、文学的、精神論的な切り口に逃避することです。高尚な言葉を使い、何か問題が解決できるような錯覚を与えるのを得意としているのではないですか。「包摂より排除に傾くナショナリズムは、社会を統合するより分断する」も、気取っています。ドコモショップの若い店員さんが社説という言葉も知らなかったのも、新聞側に責任があるのかもしれません。

「社会が抱える分断という病理を直視し、そこにつけ込まない政治や言論を強くしていかなかければならない」と、朝日は書きます。「ふーん。それって一体、どういうことなの」ですね。価値観が多様化し、利害対立が複雑になり、分断を生んでいるのでしょう。分断が不可避になってしまった時代であり、全員が納得できるような社会の合意形成はありえないというのが現実ではないですか。

社論の制約でニュースの処理が後手


読売はどうでしょうか。「世界の安定へ重い日本の責務」が見出しです。読売がもっとも重視しているのは、社論の統一です。重要なテーマに関する社説は、社内では聖域扱いです。実際の現実は社説の尺度では扱いきれないほど多様で、動きも早い。編集現場がどうしたものかと逡巡しているうちに、ニュースの扱い、解釈でしばしば他社の遅れをとることも多いのです。

読売の社説を一読して分るのは、「・・べきである」、「・・ねばならない」という表現が多用されていることです。朝日が精神論、理想論に逃避しがちであるのに対し、読売は多くの問題を政治主導で「解決せねばならない」というスタンスですね。

「シリアの内戦終結へ、関係国は軍事作戦をめぐる協調を急ぐべきである」、「中国の圧力に抗するには、安保関連法を適切に運用し、日米同盟の抑止力を高めねばならない」、「対テロでは、法制度に不備がないか点検し、改善するのが政治の責務だ」、などなど。

首相の施政方針演説の雰囲気ですね。元旦社説は政治、経済、外交、安全保障など洗いざらい扱い、「・・べきである」、「・・ねばならない」と主張するので、歴史の底流で何が動いており、何が解決でき、なにが解決できないのかが読み取れません。

政治の安定に必要なチェック機能


「潜在成長率の低下に対抗する成長戦略が十分に効果を発揮していない」と、読売は主張します。本当の問題は、長期的な経済成長率の低下が不可避の時代に入ったことにあるのに、「国内総生産(GDP)600兆円の実現には成長政策を一段と強めるしか道はない」と断定します。無理な経済目標にこだわるなと、なぜいわないのでしょうか。

「社説対決はどっちの勝ち」は、読者の好みに委ねます。朝日についていえば、アジアでの分断を生んだのは、慰安婦問題の報道にみられたように、朝日新聞そのものにも責任があります。読売は「山積する課題をこなしていくには、政治の安定が不可欠だ」といいます。政治の安定には、政権外部からのチェック機能の安定的な確立こそが不可欠であることに言及してほしいですね。政権との距離をとり、新聞としてチェック機能を果たすべきであることをお忘れなく。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年1月2日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた中村氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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