東芝にみる大企業病は根本治療を

岡本 裕明

東芝問題が次のステージに移りそうな気配が見えてきました。一部では刑事告発はない、と言われ続けたのですが官邸は東芝を守り切れないかもしれません。あれだけの圧倒的政治力を持っても守れなくなったとすればそれは思った以上に体質が毀損していたからでしょうか?

刑事告発される可能性があるなら組織として悪事だと認識しながらそれを行ったという意味です。オリンパス事件では会社の資金運用の失敗というパンドラの箱を用意し、詰め込んだ外部の人間のチームが悪事を働き、代々社長に引き継がれました。刑事訴追はそのトップとパンドラの箱を作った外部の人間のみです。言い換えればオリンパスの会社そのものは健全だったということです。東芝のケースとはそこが違います。

私は日本の建設業界に20年在籍しましたがあの業界も酷かった代表格です。特に私の頃は談合事件が多かったのですが、談合はごく普通に行われており、その担当(というより組織)にいる人たちの常識観は完全に一般社会人が持つそれと異なっておりました。そういう私は国内の不動産開発部隊に在籍していましたが、ここでもここには書けないとんでもないことばかりが日常茶飯事で起きており本が一冊書けるほどてんこ盛りでありました。

不祥事になった場合、日本の通例でトップが責任を取るようになっています。そして実務に関与した人は案外無罪放免で会社の中でも普通に復活したりしています。人事部長が不正を働いた社員を呼びつけ「始末書は提出してもらう。だが、君はまだ若く将来もある。この不正も君が主導したわけではなく、組織としてやらざるを得なかったわけだから今回はこれ以上のペナルティは課さない」。これは当時、私が役員から間接的に耳にした言葉です。その時思ったのは「会社って寛容だ!」であります。

最近の企業ものドラマを見ていると同様の不正があった場合若手の担当者はいたたまれなくなって会社を辞めるケースが「格好いい」スタイルとして脚本化されているように見えます。(そのまま不問で会社に残ったらドラマにならないからでしょう。)実際にはそんなすっきり割り切れるような辞め方は誰もしません。あのSTAP細胞の小保方さんがそうでした。本人しか分からない事件ですがあのしがみつき振りはドラマ以上でしたがこれが実体でしょう。

つまり、マスコミが取り上げない事件、会社の中で葬り去られた事件を含め、悪事は無数にあるもののその責任を取らされていない仕組みが組織を蝕んでいないでしょうか?

会社組織が行き詰ったり蝕まれたら一度「初期化」し直すべきでしょう。その際、膿は出さなくてはいけません。一流会社の社員の頭脳はそれなり優秀であるわけですから不問や十分なペナルティが課せられなければ同じことは再び起きてしまいます。JALにしても日産自動車にしても解体的出直しをしています。バブル処理に苦しんだ多くのゼネコンの倒産、再生も解体的出直しです。一部からはこのような「初期化救済手法」に対して強い反対のボイスがあります。ゾンビだとか競争の不平等化だと言われ続けました。が、再生した会社は以前の会社ではないのです。ここがポイントです。

アメリカでは倒産や自己破産は日常茶飯事。そしてそれを選択してもすぐに生き返ります。それは初期化することで膿を出し、また一つ勉強するということです。日本の社会はバッテンを永久に背負う仕組みです。「あの会社は以前、潰れた」「離婚経験者だよ」「破産して夜逃げしてきたらしい」などなど。つまり、バツ印をもらうのを極端に嫌うのです。これが逆に組織が更新されない原因かもしれません。

東芝は刑事告発すべきでしょう。厳しい態度で臨み、私的再生に追い込むぐらいではないとだめかもしれません。そこで再生すればよいのです。私は社会がそれを認めることも必要だと考えています。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 1月11日付より