御立尚資氏が提起する観光立国へやるべき3つのこと --- G1オピニオン

2016年01月21日 21:00

(アゴラ編集部より)この記事はGLOBIS知見録「G1政策研究所」のアドバイザリーボード・メンバー5名によるリレー連載「G1オピニオン」からの転載です。今回の執筆者は、御立尚資・ボストンコンサルティンググループ日本代表です。
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【今回のまとめ】
◆国内観光産業の生産性を上げ、働き手の賃金と雇用の質を高めよ
◆インフラのボトルネックを取り除き、財政支出への負担を極小化せよ
◆ハイエンド需要の取り込みを最優先のマーケティング・商品開発政策にせよ

観光立国とは、すなわち観光を通じて、経済が成長し、国民が豊かになることだ。そのためには、単にインバウンド旅行者の数を追い求めるだけでは足りない。以下を提言したい。

1. 国内観光産業の生産性を上げ、働き手の賃金と雇用の質を高めよ

日本経済の7割以上を占めるサービス産業。その中でも、観光(宿泊、飲食等)は、介護と並んで、賃金レベルが低い。非正規雇用の比率が高いのも特徴だ。

これまで、観光政策は「産業政策」よりも「マーケティング」あるいは「インフラ投資」に重点が置かれてきた。ビザ発給条件の緩和などを通じてインバウンド需要が伸び始めた現在からは、まさに「観光産業政策」が最重要となる。

折角増えてきたインバウンドを、持続的な賃金増や正規雇用の増につなげていくためには、単純に労働分配率を上げるというのではなく、業界として生産性を上げ、その果実を働き手にも還元するという打ち手が不可欠である。

(1)中小企業が分散する観光業界において、生産性向上につながる経営ノウハウ(例:スタッフの多能化などヒトの稼働率を上げる手法や調達マネジメント、プライシングマネジメント等)を学び、それを広めるプラットフォーム作りを観光庁の政策の柱に。

(2)これから全国に作られようとしている観光プラットフォームDMO(Destination Marketing Organization)を、マーケティングハブだけでなくオペレーション生産性向上のハブと位置付けよう。

(3)正規雇用を増やせない最大の理由である年間需要の繁閑差を低減させるために、休暇の分散化を。

2. インフラのボトルネックを取り除き、財政支出への負担を極小化せよ

急増するインバウンド需要に対し、観光インフラのあちこちにボトルネックが生じている。一部都市のホテル不足など、民泊あるいはこれからの民間投資といった施策でカバーできるものは良いのだが、大小さまざまな公的インフラはそれではすまない。

(1)複数の空港でCIQ(税関、出入国管理、検疫)のキャパシティがインバウンド増の制約条件になっている。国家公務員の人員数増に直結する現在のやり方だけでなく、民間への業務一部委託、あるいは徹底的なデジタル化・無人化を進めよう。

(2)フェリーターミナルや空港ターミナル施設に、PFI(Private Finance Initiative)の枠組みによるコンセッションを広く導入し、民間のリスクマネーによる投資で公的インフラを維持・拡充しよう。

3. ハイエンド需要の取り込みを最優先のマーケティング・商品開発政策にせよ

これまでのところ、インバウンド観光増は、中国をはじめとしたアジア諸国のミドル層に支えられている。しかし、これだけでは経済へのインパクトは限定的だ。

日本における観光消費は、2006年ごろの30兆円から大幅に縮小し、絶好調のインバウンドを含めても、2015年で23兆円前後になっている。国内の観光需要が大きく減った分を、インバウンドが埋めきれていないという構図だ。

観光需要をいま一度成長させ、かつ生産性を高めていくためには、一人当たり支出の多いハイエンド層、特に欧米旅客の取り込みが不可欠だ。

(1)インバウンドを一律と捉えた「旅客数」のKPI(Key Performance Indicator)だけでなく、セグメント別の旅客数、さらには、観光消費金額そのものを観光政策のKPIに。

(2)「アジア」「団体」「ゴールデンルート」というボリュームゾーンだけではなく、持続的にハイエンド層が魅力と感じる観光コンテンツを磨きこもう。具体的には、食を含む地方文化、歴史を「売れる」地域を増やし、またワールドクラスのビーチリゾート、スキーリゾートを作り上げよう。

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御立 尚資
ボストン コンサルティング グループ 日本代表




「100の行動」「G1政策研究所」とは?
「100の行動」とは、日本のビジョンを「100の行動計画」というカタチで、国民的政策論議を喚起しながら描くプロジェクト。一般社団法人G1サミット 代表理事、グロービス経営大学院 学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナーである堀義人が、2011年7月に開始した。どんな会社でもやるべきことを10やれば再生できる、閉塞感あるこの国も100ぐらいやれば明るい未来が開けるという信念に基づく「静かな革命」である。堀義人による4年をかけた執筆は2015年7月に完了した。

「G1政策研究所」は2014年8月に一般社団法人G1サミットによって創設されたシンクタンク機能。日本を良くするための具体的なビジョンと方法論を「100の行動」として提示し、行動していくことを目的としている。アドバイザリーボードの構成は以下の通り。

【顧問】
竹中 平蔵 慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所 所長

【アドバイザリーボード】
秋山 咲恵 株式会社サキコーポレーション 代表取締役社長
翁 百合 株式会社日本総合研究所 副理事長
神保 謙 慶應義塾大学 総合政策学部准教授
御立 尚資 ボストン コンサルティング グループ 日本代表
柳川 範之 東京大学 大学院経済学研究科・経済学部教授
堀 義人 グロービス経営大学院 学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー


編集部より:この記事は、GLOBIS知見録「G1オピニオン」2016年1月14日の記事「インバウンド数だけ追ってもだめ!観光立国のためにやるべき3つのこと」を転載させてもらいました(見出しはアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はG1オピニオンをご覧ください。

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