不適切会計問題を起こした東芝の財務状況が、厳しい状況にあることが明らかになってきています。自己資本比率は8%程度と、黄色信号。
財務状況を改善するために、「高く売れる」東芝メディカルを売却することになりました。
一方、「一本足打法」とも言われるように、東芝の儲けをたたき出しているフラッシュメモリ事業は、巨額な設備投資が必要とされます。半導体事業はシリコンサイクルと言われるように、好不況を繰り返します。
「フラッシュメモリの今後を予測する」にも書いたように、不況時に設備投資を行ったものが、その後にやってくる好況時に巨額の利益を手に入れます。
好況になってから投資を始めたのでは間に合わないのです。
生産能力を増やすために投資を続けなければいけないフラッシュメモリ事業は、技術自体が2次元メモリから3次元メモリへという大きな変革期を迎えています。
今まで平面内(2次元上)でメモリのサイズを縮小することでメモリ容量を増加させてきたのに対し、3次元方向にいわば超高層ビルを建てるようにメモリを積層することで大容量を実現する、3次元メモリがいよいよ実用化されます。
2次元メモリでは、微細なリソグラフィを行うための高価な露光装置が必要でした。一方、3次元メモリでは金属やシリコン、絶縁体を積層する装置や、深い穴を空けるエッチング装置が必要になります。
このようにフラッシュメモリ事業では、生産能力を増加させるための投資に加えて、3次元メモリを量産するための新たな装置が必要になるため、5000億円という巨額な投資が必要になっているのです。
現在の東芝にとっては、資金が無い状態で投資しなければ先が無い、という厳しい状況です。
この10年余り、日本のメーカーでは事業再編・リストラが相次ぎました。ともするとキャッシュを節約するため、会社を延命するために、将来への投資を控えがちでした。それは短期的には不採算事業の従業員の雇用を確保し、会社を延命させる「正しい」経営だったのかもしれません。
儲かっている事業も不採算事業もみんなで節約する。苦しみを全員で分かち合うことが良しとされる風潮もありました。
しかし、そうやって既存の組織の延命を優先してしまい、儲かっていた事業への投資を控えるようになると、ジリ貧です。
やがて好調だった事業も弱体化し、結局は従業員のリストラに追い込まれます。
会社の延命と事業の成長の両立がもし難しいのならば、既に分社化を検討と報道されていますが、フラッシュメモリのように成長が期待される事業はスピンオフして、外部資金を投入することも必要になります。
結局のところ、事業を先に考えることでしか、長期的には企業の発展も従業員の雇用の確保も難しいのだと思います。
苦しい状況だからこそ、外に出す事業と投資する事業を明確に分ける。
いま東芝から矢継ぎ早に事業再編の計画が出されているのは、急に改革案が出てきたというよりも、「辞めた方が良い不採算事業は誰もがわかっていたのに、実行できなかった」というケースが多いのではないでしょうか。
日本企業の場合は「会社存亡の危機」の時でもなければ、大胆な事業再編が難しいのかもしれません。
東芝にとって、現在は危機であるのと同時に「普通の会社」になるための、絶好のチャンスであるとも言えます。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。